ヘールボップ彗星を覚えてますか? 2021

 呼吸音さえもどかしいのは、離れていた時間があまりにも永すぎたから……。


 夕陽の残像を辿り、長く伸びるあなたの影を追った。

 いつかの春の夕暮れのように。


 眩暈がする程に、あなたを見詰める。細い月だけが支配する、この夜に。


 あなたと居た春。思春期の淡い春。桜と、甘い風。


「ヘールポップ彗星を、覚えてますか?」


 星を探して、空を見上げた春の宵。恋を覚えた、春の宵。

 いくつもの春を振り返り、17歳のあなたにもう一度恋をする。


 いつだって、ためらい勝ちにあなたを追いかけた。

 視線を交わす事すらできない、臆病だった私は。


 低い宵の空にヘールポップ彗星を探すふりをして、本当はあなたばかり見詰めていた。

 あなたを覗めば、いつだって春の心地になる。


「私の事、ずっと好きでいてね」


 私は囁く。雨に囀さえずる、小鳥のように。


 今宵、いとしいあなたと。


 欲望ばかり渦を巻くけど、わざと素知らぬ顔をして笑う。

 まるで、誘蛾灯のように甘い罠。


 毛細血管の末端まで、あなたで満たされていく。


 明け方の浅い夢のように……。


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