夢から醒めたら……

遠堂瑠璃

夕暮れのロゼ

 ケモノのような恋をしよう。

 あなたとならば、そんな恋もいいと思う。


 きっと酔っているんだろう。


 月を見上げて、口笛を吹く。

 キリリと青いシリウス。

 懐かしい歌が聴きたくなる。


 あの頃小学生だった私もあなたも、今は悲しくなる程素敵なお年頃。

 あなたはきっと、私の事なんて瞬きの一瞬すら思い出す事もないのだろう。


 私はあなたに、永い永い恋をした。

 恋をした果てに、燃え尽きた心は煙になって空に融けた。


 雨上がりの水溜まりを飛び越える。

 足元がふわふわ、まるで羽根が生えたよう。

 夕暮れのロゼのせいだろう。

 ピンクの泡が私の体の中を転がり、ほどけてしまった筈の恋心を結ぶ。

 ピンクの泡のイタズラ。


 私はふわふわ、膨らみ始めた胸を弾ませていた頃の、思春期の夢を見る。

 火照った頬に、涙の粒が立ち止まる。


 青いシリウス。もうきっと、夢は見れない。


 ロゼのピンクの泡が、私の中で弾ける。

 ピンクの魔法がほどければ、私はまた悲しいお年頃の主婦に戻る。


 2月の三日月。春のような匂い。


 ああ、夕食の支度をしなきゃ……


 赤いランドセルの少女はロゼの泡と手を繋いだまま、スキップしながら弾けて、残ったのは2021年の私だけ。

 頬の熱は夜を孕んだ風にさらわれ、夕食の段取りを考える私だけが夕闇の公園に立ち尽くしていた。


 

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