恋に落ちたサクラの花びら~小説版~
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恋に落ちたサクラの花びら~小説版~
「ふわあ!」
ベッドから飛び起きて、部屋にかかる時計を見ると7:40だった。家を出るのは確か8時だったよね?!目覚まし時計を睨むと、何食わぬ顔で7:40を指していた。
「なんで鳴らなかったのおーーーー!?!?」
ああもう!今日は高校生1日目だから化粧も着こなしも髪型も完璧にしたかったのに!目覚まし時計に怒るのは帰ってきてからでいい!!ああどうする?!まず髪型から?
おうりゃあああーーーーーーーー!!!!!!
「行ってきますうううううう!!!」
「うふふ。気をつけてね~!」
お母さん!笑ってないで起こしてくれれば良かったのにぃーーー!!マンガのように食パンをくわえて全力疾走。短くしたスカートがヤバイ。スースーする。めくれてないよね?何度も練習したゆるふわセミロングの髪も、疾風と春風で舞う。ああ、乱れてないといいけど。
私、
ガンッ!
「っつぅ!」
前からきた男性と肩がぶつかってしまった。顔はよく、見えなかったんだけど………。もしかしてもしかして王子様!?こういう展開、マンガではありがちよ!?さあ、顔を見せて!?
「すみません!」
なんとなんと、ただの中年のサラリーマンだった。いや、ただのサラリーマンって言ったらだめか。ちゃんと税金を納めてくれてるんだから。ごめんなさい。そちらも遅刻しているんですね。邪魔してごめんなさい。そして、お互い頑張りましょうっ!!!
おうりゃあああああああああ!!!
後ろの教室のドアを勢いよく開けると、ギリギリ間に合った。だが、前のドアから入ってきた先生と目が合い、たじたじになった。
すみませんすみませんすみませんっ!!!口パクで謝りながら姿勢を低くして自分の席に座る。
「名西さん、ですね。今日はギリギリセーフにしときましょう。」
早速、先生に名前を覚えられてしまった。
「…………すみません。」
机に額がつかんばかりに頭を下げると、クラスメイトにクスクス笑われた。き、気にしない。大丈夫大丈夫!!
「じゃあ、今日の予定話しますねー。今日は…………。」
昨日のマンガ夜更かしが種だったみたい。先生の話を聞かずにボーッとしていたら、次の動きが分からず、またクラスメイトに笑われた。
「うぅ。疲れたー。」
机に突っ伏しておでこを打ち付ける放課後の私。朝の勢いはどこへやら。今日は始業式やいろいろな確認があり、忙しかった。なんか、みんなからもバカにされるような視線があって、気が重かった。こんなはずじゃ、なかったのにな。
「もう帰ろう。………………」
ほんとは、最初が肝心だ!って思って、クラスで浮かないようにみんなに従ってもらえるような、上に立てるような存在になりたいと思ったのに。ダメだ。失敗しちゃった。
校門まで、トコトコ。うつむいて歩いていく。後ろから、バタバタと走ってくる音がする。そしてそれは私を抜かした。ぱっと前を向くと、背の高い男子が颯爽と走り去っていくのが見える。
「……………あ」
なんか、落としてった。ん?ハンカチ。届けなきゃだよね?
まだ、私の視界に男子が走っていくのが見える。勝手に足が動いていた。
「待って、ま、って、……………!!」
呼んだのが聞こえたのか、その男子が校門前で立ち止まり振り向く。
「っ…………………!」
その瞬間、恋に落ちた。一目惚れだった。王子様のようなルックスに、明るい髪色の背の高い男子。肩からは、サッカーのバッグを掛けていた。胸がドキドキするのを押さえるのに、手で胸元の制服をつかむ。
「どうしたの?」
「あ………!ハンカチ、落としたよ……………?」
彼は、ハンカチをそっと私の手から引き抜き、
「ああ、ありがと。ごめん、急いでるんだ。またな。」
私は声を出さずコクコクうなずくだけだったが、彼は満足そうに笑って去っていった。笑った顔が可愛いなんて……………マンガみたいでズルいよ……………!
マンガみたいな恋に落ちました。近くのサクラ並木から、サクラの花びらが風にのって舞い降りた。
………………また、会えますか?
今日はそれだけで、満足な1日なった。
「うっしゃっ!また明日から頑張ろ!」
『私、キミのことが好………………!』
『その先は、オレに言わせて?』
「きゃ、きゃあああ♥」
王子様がヒロインの口に人差し指を立てて、ヒロインの告白を止めるマンガの展開ぃ~♥ありがちだけど何度見ても可愛いぃ~!あぁ、いいなぁ。マンガを投げ出して、座っていたベッドに倒れ込む。そして、妄想タイム…………。これが私の帰ってきたあとのルーティン。
いつもは妄想で、推しマンガ、“恋に落ちたサクラの花びら”の王子様、高見沢レイナくんとヒロイン、川谷彩佳かわたにあやかがイチャイチャしているのだが…………。おかしい、妄想で私と、今日会った王子様が出てくる。手を繋いで、デートして、キスして……………!
「はぁぁ♥」
思わずにやける。………………って、何できゅんきゅんしてるの?!現実妄想できゅんきゅんしたことないのに!前髪をすきながら、また、はぁ、とため息をつく。
にしても、今日会った彼、かっこ良かったなあ。走っていたのに息切れせず、あんなにも爽やかな笑顔を見せてくれて。
胸に手を当てると、まだドキドキしている。それが、私の恋を示していた。
私の見間違いだろうか。昨日も結局、夜遅くまで“恋に落ちたサクラの花びら”を読んでしまった。だから、寝ぼけてるだけに違いない。もしくは夢?いやでも今日は寝坊せず、ちゃんと起きれたはずだ。学校にも余裕たっぷりで来た…………。1番窓側の、1番後ろの列の席。ここは昨日と同じ、私の席なはず。
昨日の王子様が私の隣の席だなんて。見間違いだ。そうだ。目をこすってみても彼はいるけど。頬をつねっても痛いけど。間違いだと言って……………!
「おはよ。どうしたの?」
っ……………!
「お、おおおおっはようっ!な、な、なんでもなーい。」
うそうそうそっ!確か昨日は眠かったから…………。隣の人のこと気にしてなかった。まさか隣が運命の人!そういう展開もアリなのに、何で気づかなかったんだろ?
ガチガチになりながら着席し、スマホでマンガを読む。だけど、内容入ってこないし、顔が熱いし、カッコ良すぎるし!!
うん。でもでもこれはチャンスだよね!今日から私はヒロイン!!頑張って、話かけてみよ………!
「あのっ……………!」「あのさ。」
思いきって隣を向くと、王子様と目があった。そして、彼も何か言いかけていた。
「さ、先どうぞ!」
譲ると、昨日のような笑顔を見せた。これからいつもこれ見れるの?!死にそ………!
「あのさ、名前、何ていうの?」
「あ、私………名西歩莉です!えと、よろしくね。」
にこっと笑って答えると、彼は一瞬、わずかに目を見開いたが、またすぐ戻って、
「歩莉さん。オレは
「え!えっと、ゆ、悠里…………?」
「そ。よろしくな。」
「う、うん!」
ヤバイヤバイ、放課後までにズタズタに殺される!可愛い!そして、呼び捨て!話せて嬉しいな。
「歩莉さん、昨日ハンカチ拾ってくれてありがと。危うく無くすとこだった。」
「ああ!うん。良かった。急いでたみたいだけど、引き留めちゃってごめんね?隣の席だったら今日でも良かったかも。」
私、今、上手く笑えてるかな?キミと目が合うだけで緊張しちゃうから、頬ひきつってるかも。それでも彼と話しているとき、とても楽しい。
私の王子様、浄法寺悠里。小さい頃からサッカーが好きで、部活はサッカー部に所属。勉強は理系が得意らしく、実験をしてる時のワクワク顔がまた可愛い。でも他の教科ではうたた寝してる。友達も多いらしく、お昼に購買に駆けていく彼の姿がたびたびみられる。そんな男子っぽいところも可愛い。
そして、ファンクラブができるほど、モテる。
一方で私は、2次元好きの友達、
「悠里くーん!今度の文化祭、私たちと一緒に見て回らないー?」
学校生活に慣れてきた5ヶ月後。来週の9月初めに文化祭があるので、教室の飾り付けを放課後、みんなでしていた。今年うちのクラスがやるのは、女子たちが押したクレープ屋さん。近くの調理室からは、練習作りのクレープの匂いが漂う。
初めての高校の文化祭を楽しみにしながら、みんながあくせく頑張っている時に悠里に話しかけているファンクラブの子たち。イラついた他の男子はそれを睨んでいた。
「ごめん、オレは行けないかも。」
「えぇーーー!?何でぇー?前夜祭の時でもいいよ?」
「うーん。まあ、考えとくね。」
私はそれを見て、とてもざわざわ。うう。私だって、悠里と見て回りたいぃー。でも、ファンクラブ以外の女子はファンクラブたちにクレープ屋さんの仕事を押し付けられているので、なかなか抜けられないのだ。
「はあ。」
悠里と話せば話すほど、好きに染められていく。それなのに、距離は縮まらない。
頑張って、誘ってみようか。文化祭。
「あっ!もう7時だよ!!門、閉まっちゃうから今日は終わりー!みんなお疲れ様!」
学級委員の言葉で、みんなが持ち場を立って、帰っていく。
「歩莉!ごめん私、彼氏と待ち合わせしてるから帰るね!」
「私も!今日ピアノがあるん!歩莉ごめん!」
「あ、うん。また明日!マンガ明日返すね!」
日芽里はイケメン推しキャラと同じアシメの前髪に、襟足を剃ったベリーショートのキリッとした女子。でも目はくりくりしてるし、声も高いので、可愛い。最近彼氏ができたリア充である。志織は高校生ピアニスト。腰まである髪を三つ編みしてお団子。これもアニメキャラの影響らしい。志織は今日もピアノのの練習だろう。完璧女子の2人だが、超がつくほどのアニオタ。そんなギャップがかわいくて、私はとても好き。でも、やっぱりクラスメイトは私たちを遠目に見ているし、少し浮いている。
「歩莉さん?」
ばっと振り返ると、教室のドアに寄りかかった悠里がいた。
「悠里…………どうしたの?」
「それはこっちのセリフだよー。もう教室、カギ閉めるよ?」
確かに、いつの間にか教室には私以外誰もいなかった。悠里は指でカギを弄びながら、疲れているはずなのにニコニコ笑っている。
…………もう、ほんとすき。
「ごめん、荷物まとめたら出るね。」
急いで荷物をまとめていると、
「そんな急がなくていいよ。一緒に帰ろ。」
「っ……………、うん。」
さらっと言われたが、一緒に帰るのは初めてだ。悠里はまんざらでもないようだが。
…………他の女の子にもそういうこと言ってるの?
…………ファンの子とも一緒に帰ってるの?
少し、モヤモヤしながら教室を出た。
サクラ並木も、初秋では木が閑散としている。夜は華やかさの欠片もない。
冷たい風が、吹いている。
「歩莉さん家、この辺?」
「うん。ありがと。ここまで送ってくれて。」
「オレ、駅のほうなんだ。近いから大丈夫。」
そう言って、人差し指で駅の方向を指す。
文化祭、誘うチャンスだけど、声が出ない。それがもどかしくて、逃げたくなった。
「そうなんだ。じゃ、また明日、悠里。」
そう言って、くるっと背を向けて家の方に歩き出した。
「……………待って、歩莉!」
5メートルくらい進んだところで、後ろから呼びかけられる。それも、呼び捨てで。弾かれるように振り返ると、いつも見せないような、真剣な王子様がいた。
「…………?」
「オレ、歩莉と文化祭回りたい。」
「っ…………!?」
「ダメ、かな?」
私と文化祭、回りたいなんて。ファンクラブの子たちに約束したんじゃなかったっけ。あれ、でも断ってたっけ?
やめて、私の目をそんなに見つめてこないで…………!それでもキミの瞳に吸い込まれたいなんて。一瞬だけ頬を膨らませる。むう、好きすぎて苦しいの。
少し顔の赤くなっているキミがかわいくて。相手は男子なのに、守ってあげたくなる。
良い方に、受け止めていいですか?
「私も。」
「?」
「私も悠里と文化祭、回りたい。」
その時見せてくれた彼の表情は、あまりにも可愛すぎるので、
私だけのヒミツ。
文化祭当日。
「イチゴトッピング2つ!あと、生クリームたっぷりで1つ!それはお子さんのやつだからイチゴ少し多めで入れてあげて!」
うちのクラスのクレープ屋さんは大盛況。先輩たちもたくさん買いに来ている。
「名西さん、最初から入ってるでしょ?2時間くらい休憩いいよ。」
最初、文化祭を回ってきた人が帰ってきて、私と代わってくれた。
「あ、ありがと!」
エプロンをはずし、休憩に入る。悠里を探して廊下に出ると、前から人波が襲ってきた。
「ぐはぁっ!」
ヤバイ、転びそ…………!
「っ…………!」
足をくじいて前に倒れかけたとき、人波の間から腕が伸びてきて私の手首をガシッと掴んだ。
「え」
「手、離さないでね!」
見覚えのある声が前から聞こえる。
「う、うん。」
そして、私を引っ張りながら、廊下を進む。いつもは可愛い印象があるが、私の手首を掴む手は、力強く、長く細かった。
そのうちに、人がまばらになっていく。そして、人っ子1人いない図書室のある廊下に出ると、2人とも荒息をついた。
「悠里…………、ありがとう。」
「いや……………でも、人ごみはやっぱり疲れるね。」
そして息を整え、2人、向かい合う。
「行こっか、歩莉。」
「うん!」
☆悠里side☆
「おいしーっ!」
オレは、歩莉と一緒に文化祭を回っていた。体育館のダンスライブや、書道パフォーマンス、射撃、とたくさん楽しめた。休憩残り30分を切ったところで、焼きそばを買って2人で食べている。
歩莉はお腹が空いていたのか、口にたくさん詰め込んで美味しそうに食べていた。
「なかなか本格的な焼きそばだね。」
ソースが濃く、食べごたえがある。優しい味だ。
「うち、塩焼きそばが多いからさー。たまに食べる出店の焼きそばが好きなんだよねー!」
歩莉はそう言いながら、もうすぐ食べ切ろうとしている。
ぱっちり目の、ゆるふわに巻かれた髪型、小さい体。そんな彼女に似合わない食べっぷり、思わず笑ってしまいそうになる。
「ねぇ。」
「…………ひゃ、い?」
オレが声をかけたとき、彼女は最後の一口を口に押し込んでいた。咀嚼しながら首をかしげる歩莉と目が合ったとき、頭が真っ白になって、顔に熱が集まる。
「…………やっぱ、何でもない。」
「???」
“なんで歩莉はそんなに可愛いの?”言いかけた言葉は胸の中に残り、うるさいほどにうごめいた。
文化祭を無事に終え、休みを挟んだ次の日。
一部の女子が私に冷たくなった。
悠里ファンクラブの子達だった。
まあ、だいたい察してはいたけど。悠里と文化祭回ってるときから視線がしたもの。
「名西さん、ちょっと良い?」
誰もいない教室の放課後。ファンクラブ1番という噂の
「ああ、悠里くんの隣の席だったわね。名西さん、存在薄いから。全然気づかなかった。ふふ。」
ねぇ。そうだよねぇ。と、取り巻きもクスクス笑う。
「あの、何なんですか?」
おののきながら、少しかみつく。すると、志井菜の表情が180度、すごい剣幕に変わった。
「“何なんですかぁ?”それはこっちが聞きたいわ!なんであんたみたいなのが悠里と文化祭回ってたの?!私たちは断られたのに!!」
私の鼻先に人差し指を突き付け、強い口調で迫ってくる。
「隣の席だから、今まであなたと悠里くんが仲良くしてても我慢してたのに!私だって、私だって悠里くんのこと、好きなのに…………!」
そして俯き、ボロボロ涙を流していた。
「えっと、、大丈夫………?」
取り巻きたちが、志井菜の肩を支え、背中をさすっていた。だから、私はハンカチを差し出したが、
「何よっ!!私は、あんたのこと、絶対ぜったいっ!許さないからっ…………!私がっ!悠里くんと付き合うんだから………っ!ファンクラブに入ってないあんたは………」
顔をきっとあげ、私と対峙した。お互い、目に炎を灯しながら。
「味方じゃないっ!ライバルだからっ!!」
「っ………………!」
ファンクラブの子達が、少し苦手だった。だけど、彼女たちが今は近くに感じる。私とやり方が違うだけ。好かれるやり方が違うだけ。
彼女たちも純粋に、悠里に恋焦がれている。
だって今、志井菜も、取り巻きも。顔を赤らめちゃってるもん。
根本は、同じなんだ。
どんどん、笑いが込み上げる。
「あれ?歩莉と、志井菜さんたち?どうしたの?」
「悠里!?」「悠里くん!?」
ドアにきょとんといたのは、ユニフォーム姿の悠里本人だった。
「あ、あ、歩莉いぃ?!悠里いぃ!?」
すると、志井菜は私たちがお互い呼び捨てなのが気に入らなかったのか、顔が鬼のようになっていた。
「「し、志井菜さん!?」」
私と悠里はあわてふためいて志井菜を見る。悠里はただただ不思議そうだったけど、私は、ヤバイよ志井菜ちゃん!悠里くんにはちゃんといつも通りいなきゃ!と、敵なのに思ってしまった。そしてはっと我に帰った志井菜は、顔をゆでダコにし、
「もうっ!!」
と、取り巻きたちと一緒に教室を出ていった。
「志井菜さん、どうしたんだ?」
悠里は、空いた口がふさがらないとばかりに、ぼそっとつぶやいた。
私は意味深に微笑み、
「それは言えないけど……………悠里はモテるんだから気をつけてよね。」
そんなこと言える立場ではないかもしれないけど。
悠里がモテると、困るから。
そこからのキミとの思い出は
まるで瞬く星のように
些細なことばかりだったけど
キミと一緒は楽しいね
クリスマス、プレゼント交換
バレンタイン、チョコに隠し本命を
そして回る星のように
時間は、永遠を信じない
サクラ並木の下。放課後、久しぶりに友2人とのらりくらり歩いて帰った。サクラは満開に近かった。
「そういえば、噂なんやけどね。」
アニメの話が一段落し、志織が話を切り出す。
「志井菜が、クラス替えする前に悠里にコクる言うて、今日の放課後、呼び出したらしいんよ。そろそろ付き合うんかなあ。」
「…………え?」
えっ………………!?
「らしいねえ。」
日芽里も、のんびりと同調した。
でも、私は心臓がズンと重くなり、鉛が体の中心でドクドクうなりをあげていた。あまりにも苦しくて、思わず立ち止まった。
「どうしたん?歩莉~?」
2歩先にいる志織が振り返り、首をかしげる。
「…………なきゃ。」
「え?」
「行かなきゃ…………!!日芽里、志織!先帰っててぇええ!!!!!」
「ええ!?ちょっと歩莉ぃ~!!」
志織と日芽里はポカンとして学校に走り戻る歩莉を見つめる。そして、それが見えなくなったとき、2人とも吹き出した。
「やっぱり、歩莉は悠里くんのこと、好きやったんやね~。」
「ほんとそれ。隠しきれてないもん、好きの気持ち。恋、実ると良いね。」
「私、噂で聞いたんよ!悠里くんに好きな人がいるって!それが…………」
志織は、春風にふかれたサクラの花びらを見上げながら微笑んだ。
「歩莉なんじゃないかって。ふふ。噂、だけどね。」
もう、志井菜は告白してしまっただろうか。心臓が焦りに叫んでいる。
校庭に入り、サッカー部室を覗く。誰もいない。
下駄箱もいない。
教室を覗く。またもや誰もいない。
ねえ、どこ…………?
こうやって走っている間に、走馬灯のごとくながれるのが、悠里との思い出。
笑顔、寝顔、真剣な顔、イタズラっ子の顔、すねている顔、かわいい顔。
「っ、失いたくない……………!」
疲れて、廊下の窓のさんを掴む。
一瞬、志井菜と悠里は結ばれたのだろうか、と悪い想像が頭をよぎった。
この3階の廊下からは、サクラ並木の道が見える。外は風が強いのか、花びらがたくさん舞っていた。散って、いった。
「あ…………………!!」
やがて風がおさまると、サクラ並木を通る人影が見えた。
「ゆ、うり…………、悠里!………ゆーりぃ!!!」
その場で大声で叫ぶと、はっと彼が振り返ってくれた。
「ちょっと、そこで待ってて…………………待って!」
彼の表情を見ずに、廊下を駆け出した。
「ごめん。」
桜並木を走り抜け、前髪をすきながら、息を弾ませ、膝に手をつく。
「歩莉……………?」
そう言った彼の顔は、真っ赤だった。
…………………もう、遅かったのかな。
それでも、もう止まれない。
マンガのように、恋よ、実れ。
「キミが好きですっ!」
覚悟はあるけど、心の中ではやっぱり、不安で。怖くて。心臓の音が聞こえてるんじゃないかってくらいドキドキしてる。
私以外の告白で顔を赤く染めるのは、許さないから。
悠里は目を見開いたが、ゆっくり微笑んでいく。
そして、今まで見た中で最高の笑顔。
かわいい。
そして、私だけのものにしたい。
彼は、私に近づいたと思ったら、私の視界を奪った。
「…………え?」
私は、悠里の胸の中にいた。
彼の手によって、頭を胸に軽く押し付けられる。
「うぐ」
「ちょー嬉しいんだけど。」
「…………え?」
私を抱く力が強くなったかと思えば、
「オレも歩莉のこと好き、だから。」
「っ………………!!」
そっと顔をあげると、1年前より背が伸びた悠里の、耳まで真っ赤な顔が見えた。こっちまでもっと恥ずかしくなって、もう1回、彼の胸に顔をうずめる。悠里、めっちゃ体熱いし、少し震えてる…………。彼も、私の肩に顔をうずめていた。
彼のYシャツからは、柑橘類の匂いがする。
いずれ、どちらからともなく、抱いていた腕をほどく。ちょっと待って。目、合わせられないよ~!一瞬だけ彼の方を見ると、首をかいてそっぽを向いていた。やっぱり私と同じで、目、合わせられないのかなあ。
すると、私のスカートをめくるほど、強い風が吹いた。……………風さん、えっち~と思いながらサクラが舞ってくる上を見ると、あんなに花びら散ってたのに、まだ満開に見える。
………………そのサクラの花びらが、いつもよりピンクだった。
「サクラ、きれいだな。」
隣を向くと、肩が触れそうなほどに近く、悠里が立っていた。
「うん……………。」
2人でしばらくサクラを見上げる。
悠里にも、サクラの花びらがピンクに見えているのだろうか。
サクラの花びらも恋、してる。
サクラを見るたび、思い出すだろう。
キミの綺麗な横顔を。
恋に落ちたサクラの花びら~小説版~ のか @LIPLIPYuziroFan
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