第80話 エピローグ




 かかさま、どうぞご安心めされませ。

 あれからわたくしは、かかさまの分まで生き永らえることができましたよ。

 3人のかわいい子どもにも恵まれ、武士の妻としての生涯を全うしました。


 ええ、ええ、それはもう幸せな歳月でございましたよ。

 もちろん、長いあいだにはさまざまなことが起こりましたが、悩み、行き暮れたとき、決まって思い出すのは、あの長い、果てのない遊行の旅路でございました。


 大きな才槌頭を打ち振って敢然と歩んで行かれるととさまのあとを、かかさまとふたり、どこまでもついてまいりましたね。苦難と忍耐に満ちた苛烈な春秋……。


 最後にかかさまが手にされたもの、愛と慈しみに満ちた微笑み、そして、凛然と香る孤高の心。それがわたくしに生き抜く力をお与えくださったのでございます。


 ですからかかさま、ご心配くださいますな。

 どうぞ、ごゆるりとおやすみくださいませ。            【完】



*参考文献 

栗田勇著『一遍上人 旅の思索者』(1977年 新潮社)

佐江衆一著『わが屍は野に捨てよ 一遍遊行』(2002年 新潮社)

ほかにインターネットを参考にしました。

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あいあふときも――捨聖の妻  🍃 上月くるを @kurutan

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