108話 ピリオド
「ちゃんと説明して」
揺れる車内で冥子が銃口を突き付ける。
「そう言われても……」
「まあまあ」
運転席に座る天城先生にも銃口を向ける。
「あなたもです先生。翔和を撃った理由も聞いてません」
天城先生はどうにかしろと言わんばかりに肩を落とした。
「……まぁ色々とあったんだよ」
「その色々について聞いてんの!」
冥子が銃口を僕の頭に強く押し当てる。
こんな状況になっても、不思議と恐怖心は無かった。ここ数日で死に際を体験し過ぎたせいか。慣れというものは恐ろしい。
「物事には順番ってものがあるだろ? 後でゆっくり説明するよ。少なくとも、僕達は共通の敵を倒した。それで今は勘弁してくれ。もう冥子が恐れるような敵はいない——」
「あー、それに関しては否定させてくれ」
ハンドルを握る天城先生がバックミラー越しに僕の言葉を遮った。
「……どういうことです?」
「もう1人、倒すべき相手がいるんだ」
「父さんを殺して、僕にこれ以上何しろと?」
「
「え?」
「2人と同じプロジェクトアダムから生み出された存在よ。詳細は不明だけど、コールドマンは彼女のことを『エンジェル』と呼んでいた」
「僕たちと同じ……」
あの白衣の女が言っていた残り3人の内の1人であることに違いはないのだろう。
「そのエンジェルはいまどこに?」
「……さあ」
「さあって、自分で言っておいてそれはないでしょ」
「実のところ、エンジェルと呼ばれていたこと以外、何も分からない。あなた達に危害を加えてくるのかもね」
普通に考えれば、あえて脅威と呼ぶのならコールドマンただ一人。それを討ったなら、エンジェルからは何もしてこないと考えてもいいはずだ。——僕に対して恨みを持っていない限りの話だが。
それとも、まだ天城先生は隠していることがあるのか。
「そんなこと言われてもですね。相手側が何もしてこないなら、僕たちがやるのはハチの巣をつつくような行為じゃないですか」
「ええ、わかっているわ。だから正確に言えばあなたにはエンジェルを探し出して欲しいの。そして、私たちに敵意はあるのかないのかを確認したい」
つまり、何も分かっていないらしい。敵なのか、味方なのかも。
「わかりました。仮に分かったとしても、僕は何もしませんから」
「……あなたはいいわよ。関係あるのは——」
先生はちらりと視線を冥子に向けた。
「ま、詳しくはあとでにしましょうか。2人とも疲れたでしょ。今日はゆっくり休みなさい」
そう言って、車が停止する。気づけば僕の家に到着していた。
「じゃ」
先生は僕と冥子が下りると、先生は運転席の窓から顔を出して手を振った。
「ちょっと待て。どうして冥子もここで降りる」
「え? だって、先生が今日はゆっくり休みなさいって」
「それは自分の家でだろ!」
「でも……」
冥子が助けを求めるように振り返る。だがしかし、既に先生の運転する車は走り出したあとだった。
「ったく、あのろくでなし教師め……」
「翔和……」
冥子は不安そうな瞳で僕のことを見つめる。まるで、道端で捨てられた子猫のような表情は、良心を痛めた。ここで無慈悲に帰れとは言えるまい。
「わかった。とりあえず、家に入ろうか」
——ここで僕は大きなミスを犯した。
これから始まる修羅場を想定せず、僕は疲れ切ったその身体で、何も考えることなく玄関の扉を開けてしまったのだ。
しかし、少なくとも、連日続いた騒動にピリオドを打てたのは言うまでもない。
<あとがき>
これで志水翔和に関しての物語は一区切りです。本来であればちょろっとやって終わりの予定が凄い長くなってしまいまいまい。まだ少し出てくるけど、がっつりはないかも。
姉妹メイドと恋人立候補の『姫君』に俺の1人暮らしが邪魔された件 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123
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