第4話 ようこそプレゼンをするダンジョンへ

いよいよ週末がやってきた。

営業時間後に1時間だけ時間をもらい、全体ミーティングを行う手はずになっている。

ここから私の、一世一代のプレゼンが始まるのであった。


「皆さん、営業時間後にお集まりいただきありがとうございます。これからこの髑髏町ダンジョンを再興すべく様々な手を考えてきましたので、ぜひ皆さん心してお聞きください」

私は、準備してもらったスクリーンにスライドを流し始めた。

「まず初めに、髑髏町ダンジョンの現状と弱点を確認していきます。現在髑髏町ダンジョンはかなりの劣勢に立たされております。近くには競合である大型ダンジョン【シェンツァ】などもあり、売り上げは落ち込む一方です。そこで、まずはこの髑髏町ダンジョンを立て直すべく、コンセプトを決めたいと思います」


ドラムロールとともにスライドが切り替わる。

そこには、【クリアが難しすぎるダンジョン】と書かれていた。

すると赤鬼のおっさんが質問をぶつけてきた。

「要は難攻不落ってことだろ?それはみんな目指してるんだよ。でもそれができないから困ってるんじゃないか」

赤鬼のおっさんは少し不機嫌そうだった。

「そうなんです。皆さんも日々鍛錬を続けていますし、実力は折り紙つきの方ばかりです。ですが皆さん残念なことに、全くといっていいほど地の利やコンビネーションを活かせていません。そこで、大きな改革案の一つ目はこちらです」


スライドが切り替わり、そこにはコンバートと書かれていた。

「コンバート、つまり所属している配置をチェンジします」

私の言葉に、皆驚いた様子をしていた。

「一覧にしてきましたので、ご覧ください」

切り替わったスライドには、以下のように書かれていた。


第1階層 ジャングルの間

階層ボス:キャシー

モンスター:カーラ

第2階層 トラップの間

階層ボス:一刀斎

モンスター:かまいたち兄弟

第3階層 即死の間

階層ボス:紫電

第4階層 タイマンの間

階層ボス:節子(アゲハ)

第5階層 地獄の間

階層ボス:スカル、赤鬼

スライドを見た皆からどよめきが聞こえた。

この中で一番驚きを集めていたのは、階層ボスにスカルさんの名前があったことのようだった。

私は先日の打ち合わせを思い返していた。


「……以上がコンバートの詳細についてです」

スカルさんは一呼吸置き、話し始めた。

「……なるほど。確かにこのコンバートなら、【クリアが難しすぎるダンジョン】というテーマにもあっていますね」

「しかし一つだけ問題がありまして」

スカルさんは首を傾げる。

「問題?それはいったい」

「問題は第5階層、つまり赤鬼さんの事なんです」

「彼はこのダンジョンのラスボスを長年やっておら、実力は十分あります。そんな彼にいったいどんな問題があるというのですか?」

やはりスカルさんは赤鬼さんをこのダンジョンのラスボスとして信用している。素晴らしいことだ。

しかし赤鬼さんには長くやっているからこそ生まれる問題があるのだ。


「単刀直入に言います。赤鬼さんは弱点がばれています」

「え?」

やはり気が付いていなかったようだ。

私がこれに気が付いたのは、ダンジョン内の映像を確認している時だった。

赤鬼さんは炎系のモンスターなので、とことん水属性の攻撃に弱いのだ。

そして、髑髏町ダンジョンに来た冒険者達はみな、水属性の魔法や攻撃スキルなどを準備してきていた。

せっかく実力があっても、弱点がバレバレではその実力を発揮することはできない。

そこで、水属性の準備に対して、こちらも対抗策を講じなくては、ダンジョンの攻略率は歯止めが効かなくなる。

だが、この髑髏町ダンジョンにはあいにく水属性の攻撃に有効な、魔法などを使えるモンスターがいない。

そこをどう埋めるかが一番の課題なのだ。

私はそのことを率直に尋ねてみた。


「赤鬼さんの弱点である水属性の攻撃を何とかする手段はありませんか?」

スカルさんは右手を顎に当て考えるポーズを取っている。

一時置いてから、スカルさんは落ち着いた口調で答えた。

「……私が出ましょう」

「え?スカルさん、水属性に対して有効な魔法が使えるのですか?」

スカルさんは見た目がガイコツなので、アンデット的な戦い方をすると思っていたのだ。

スカルさんはふふっと笑った。


「これは誰にも話していないので、ぜひ内密にしていただきたいのですが、私はもともと人間の魔法使いだったんです」

私は驚きのあまり声が出なかった。

そんな私を横目にスカルさんは話をつづけた。

「生前、まあ今も生きているんですけど、私が人間だったころ、私は魔王討伐の命を国王から受け、勇者とともに冒険の旅に出ておりました。そしていよいよ魔王と対峙した際、そのあまりにも強大な力を前に私たちにはなすすべがなかったんです。しかし、私には一つだけ奥の手がありました。それは禁術とされている大魔法を使うことでした。この魔法は私の命と引き換えに放つ魔法だと聞かされていたのですが、実際は違いました。これは、私の生命力をすべて使ったうえで、死ねなくなる魔法だったのです。結果その大魔法の効果もあって魔王は討伐できたのですが、私はそまま生き延び、その後色々あってこのダンジョンへと身を寄せたのです」

「……そうだったんですね」

その場に重い空気が流れた。


「ということで私は氷系の魔法が使えますので、水対策にはもってこいだと思います。お世話になったこのダンジョンのためにも、私が一肌脱ぎましょう」

スカルさんの明るい表情の裏には決意が見て取れた。

「……ありがとうございます。必ずこのダンジョンを再興させましょう」


どよめきが治まったころを見計らって、私は話を再開する。

「今回はひとまずコンバートの内容を発表するまでにとどめておきます。詳細は、明日各階層を回り説明していきます。それではテーマともう一つ大事なことをここで決めたいと思います。目標というかスローガンなのですが、私が視察に行ったシェンツァでは、【最高の冒険をお客様へ】という理念の元、全員が一丸となっていました。そこで、髑髏町ダンジョンも同じようにスローガンを掲げ、それを目指していきたいのです。誰か案のある方はいませんか?」

私は皆のほうを見まわす。

皆一様に考えるようなそぶりを見せていた。


するとキャシーが恐る恐る手を上げた。

私はキャシーを指さし、「キャシーさんお願いします」と言った。

キャシーは立ち上がり、「一致団結、とかはどうでしょうか?」と言った。

「いいですね。ありがとうございます」私はキャシーの勇気をたたえた。

キャシーの案をアリサちゃんがホワイトボードに書いていく。

「ほかにある方はいませんか?」私がそう聞くといくつか案が出てきた。

これもキャシーのおかげだろう。


数分後、「そろそろ締め切りますよ」と言うと、アゲハさんが話し始めた。

「なんかどれもピンと来ねえな、もう『一人も生きて返さねえ』とかでいいんじゃん?」

「え?」

「だから、クリアが難しすぎるダンジョンなんだろ?だったら来た奴全員ぶっ倒すてことなんだから、『一人も生きて返さねえ』ぐらいのほうがいいんじゃね?」

さすがにそれは目標としてどうなのかと思ったが、周りから「それいいかも」「確かにテーマに合ってる」というような声が聞こえてきた。


多数決の結果、髑髏町ダンジョンの目標は、【一人も生きて返さねえ】に決定した。


私は気を取り直して、次の議題へと移った。

「いい目標が決まってよかったです……では次に改革案その2です」

私がそういうとスライドが切り替わり、そこには【イメージを変える】と書かれていた。

「今の髑髏町ダンジョンのイメージは、よく言えば老舗、悪く言えば古臭いと思われています。まずはそのイメージをぶち壊します。そしてこの髑髏町ダンジョンのテーマは【クリアが難しすぎるダンジョン】ですので、そのイメージを冒険者の方などに周知していきたいのです。そこでまずは、入り口の看板を変更します。次に各階をイメージに合わせて模様替えします。そのため明日から1週間は休園となりますが、この1週間で模様替えをしたり、看板を作ったり、イメージを変えるCMの撮影をしたりします。正直予算が全然ないので、皆さん協力のほどよろしくお願いいたします。そして、SNSや動画投稿サイトなどもフル活用していく予定ですので、そちらもご協力のほどよろしくお願いいたします」


そう言って私は寝ずに作った、この1週間のタイムスケジュールと模様替えの指示書、各担当が記載されたプリントを配布し始めた。

「すみませんが、明日までには軽く目を通しておいてください」

皆から驚きの声が上がる。

元の世界にいたころは、こういう雑務はほぼすべて自分に回ってきていたため、資料などを作るのには慣れていた。

まさかそれがこんなところで活きるとは自分でも驚きだった。


「そして最後に、こちらをご覧ください」

私がそういうと、再びスライドが変わった。

そこには、【ダンジョンを攻略した冒険者にはものすごい賞品が!】と書かれていた。

場がざわついた。


「【クリアが難しすぎるダンジョン】というテーマはかなりインパクトが強いですが、それだけではまだ弱いと考えます。そこで、誰もが目を引くような賞品があるとより集客効果を上げられると考えました。そこで、スカルさんと相談した結果、ものすごい賞品を用意できました。スカルさん、発表をお願いします」

私がそういうと、スカルさんは立ち上がり皆の前へ出て、懐から宝剣シュテルクストの剣を取り出し高く掲げた。

皆の視線は宝剣にくぎ付けになり、場は水を打ったように静まり返った。


「これは、かの勇者フェデルタが魔王討伐の際に使った宝剣シュテルクストの剣です。皆さんも教科書などで見たことがあるかもしれませんが、これが本物です。故あって私がこの剣を手にしております。そして今回この剣をダンジョン攻略時の賞品とします」

皆から「本当に存在したんだ……」「なんでこのダンジョンに?」「あの剣でもう一つダンジョンが買えるんじゃ……」とざわめきが一層強くなった。

この世界では、シュテルクストの剣はものすごく有名で高価なものだということがわかった。

これなら賞品にはもってこいだ。


スカルさんは咳払いをして話をつづけた。

「この剣を渡してしまうと、本当にこのダンジョンには宝と呼べるものは無くなります。しかし私は、そんなリスクがあったとしても、このダンジョンをもう一度再興したいのです。ですので皆さん、これが本当に最後のチャンスです。皆さんの力があればそう簡単にはこのダンジョンは突破されません。私は皆さんのことを信じています。このダンジョンの従業員が一丸となり、この髑髏町ダンジョンを盛り上げましょう。なにとぞ、よろしくお願い致します!」

スカルさんは深く頭を下げた。

その姿を見たみんなの目つきが変わったのを私は見逃さなかった。

これはシュテルクストの剣が惜しいのではなく、

スカルさんが本当にみんなから愛され信頼されている証拠なのだ。

皆から拍手が沸き起こった。


「それではそろそろ1時間ですので、この辺でおしまいにしましょう。皆さん明日からよろしくお願いします」

私がそういうと、周りから再び拍手が起きた。

予定通りにミーティングができたことに私はほっとした。


その後スカルさんに呼び出された私は、社長室へと向かった。

ノックをし中に入ると、スカルさんと赤鬼のおっさんがいて、2人とも上機嫌だった。

「いやーお疲れ様でした!立花さんすごく良かったですよ!」

スカルさんが私をほめてくれた。

「いえ、皆さんが素直に受け入れてくれたのでうまくいったんですよ。それに大変なのはこれからですから、ここから何とか髑髏町ダンジョンを盛り上げていきましょう」

「おう、頑張ろうな。しかし、スカルが現場に復帰するのは意外だったよ」

「皆さんと同じタイミングで発表になってしまいすみません。ですが、お2人が力を合わせることで、きっとこのダンジョンは【クリアが難しすぎるダンジョン】になりますよ」

「しかし、本当にシュテルクストの剣を出しちまって大丈夫なのか?あれはお前の……」

赤鬼のおっさんがそこまで言うと、スカルさんはその言葉を遮った。

「まあまあ、良いじゃないですか。このダンジョンを救うために私は腹をくくったんです」

そう言ったスカルさんを見て、赤鬼のおっさんはうなずいた。

「そうだな!わしももっと頑張らなくてはな!それに先代のラスボスと今のラスボスがタッグを組んだら、そんじょそこらの奴には負ける気はせんしな!」

「え?スカルさんは先代のラスボスだったんですか?」

「言っていませんでしたか?私は先代のラスボスです。色々あって現場は退きましたが、今でもバリバリ働けますよ」

そう言ってスカルさんは微笑んだ。

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ようこそドクロ町ダンジョンへ!~突然召喚されたモブの俺がゴミみたいなダンジョンを成功させるまで~ ハシダスガヲ @hashidasugao

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