人生の物語だと思う。
そこに生まれ、土地に育まれ、出会ってきた人々と諍い、愛す。
誰を憎んで良いのかさえ分からない悲しみに見舞われて、愛しいものを失ったり、生まれたときから「当たり前」だと思ってきた習慣が、とても窮屈なものに感じたとしても、静かに呼吸を整え、じっと耐えてゆくこと。
みずからの本分を見極め、それをこなしていくこと。
あるいは、生活の中で少しずつ信頼を積み上げて、かけがえのないものを見いだしてゆくこと。
まさに人生だ。
しかしほんとうにそうだろうか。
いや、正しくは、ほんとうにそれ「だけ」だろうか?
絡み合った禍福、もつれた感情。
それらに囚われて動けなくなっていた主人公にもたらされた光。
ラストシーン、思いもかけなかった風景を目にした主人公の寂しげな言葉にもかかわらず、読者の脳裏には「光」によって啓けた世界、主人公が次に歩んでいくことになる人生の舞台が浮かび、主人公の背をそっと押したくなるに違いない。