第12話

歩いて近いと感じる場所だ。

車で走れば尚更早い。

だが、学校前の通りは何故だか混み合っていた。

「なんでこんなに車がいるの?」

マディソンは前の席に身を乗り出す。

「親が送迎してるんだ。」

なんでもないことのように父親は答えた。

「大したことはないみたいだが、用心してるんだろう。」

ウチも同じだ、と言い添えて。

「警察が来てるって言ってたよね?」

「ああ。」

「ほんとに大したことないの?」

「警察野郎は、見張り役だ。ただでさえ治安が悪いところだからな。大ごとになってからだと面倒だろ?」

「へえ。そうなの。」

「でも念のため、帰ったら家から出るんじゃないぞ。母さんはまだ仕事中だしな。」

それからマディソンの父は、フロントミラーを見ながら

「キアラもだぞ。」

と言った。

するとマディソンが思い出したように手を叩く。

「あっバイトは?」

それで当のキアラも思い出した。

フローズンヨーグルトのくだりから忘れていたが、今日は初出勤日だ。

自転車でも使おうと思っていたが、やめた方がいいかもしれない。

「あー。どうしようかなあ。」

「お母さんは仕事?」

「あー、たぶん。」

本当は酔って寝ているはずだが、そんな情けないことは打ち明けられなかった。

「送っていってやろうか?」

友人の父は運転手を申し出てくれる。

「うーん、バスで行こうかな。遅くならないと思うし。」

優しい提案を断って。

「そうなの?」

優しい親友から目を逸らした。

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Hero 吉野コウ @ladygaga

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