おまけ_第6話 マリア・ヘリオドール6

 私の下の兄夫妻も席に着いた。


『はぁ~~~~~~~~~~~~~』


 心の中で大きなため息を吐いた。外面は……、大丈夫だと思う。

 戦争の英雄。公爵という地位。この国の財政面で大きな力を持っている。

 そして、世界最強の武力。


 正直この、エヴィお兄さまが一番怖い。

 温厚な性格で、誰にでも優しく接する人なのだけど、時々シルビアお義姉さまの表情を曇らせる時がある。

 その瞬間が怖い。


 数ヵ月前の話になるけど、シルビアお義姉さまに会った時に、『百合ルート行けんじゃね?』と思ったことがあった。

 百合ルートに突入すれば、最低でも破滅フラグは踏まないはずだと思った。

 だけど、次の日にその希望も打ち砕かれた。


 シルビアお義姉さまの懐妊が発見されたのだ。

 何時もこれだ。


 私が百合ルートを希望すると、世界がそれを拒絶するのだ。

 国王陛下と会ってからは、その理由も分かった気がする。

 私は、シナリオに沿った行動しか許されないのだと……。

 ただし、破滅フラグは踏みたくない。

 正直、相手は誰でも良い。それに、前世に比べれば、この世界は楽しい。

 楽しむだけ楽しんでから死んでやろうと思う。

 決闘で死ぬのだけは、御免だけど。


「決闘相手だけど、軽傷だった。マリアは、また腕を上げたようだね」


 エヴィお兄さまは、回復魔法の使い手だ。遺恨が残らないように相手に処置を施していてくれていた。

 異国から来てまで、挑んで来た相手なのだ。必要ないとも思えるけど、優しいお兄さまだ。





「全員集まりましたし、話し合いを始めましょうか」


 そう言って、エリカお義姉さまが、紙をテーブルに広げた。


「今後のルートなん? 第二王子攻略ルートで良いの?」


「今分かっている攻略対象は、第二王子とアクアマリン公爵令息だけですからね。

 他はそのうち出て来そうですけど、マリアさんの希望は、破滅フラグの回避のみなので、それを目標にして動きます」


「う~ん。セリーヌっちに第三王子が生まれたじゃん?

 第二王子の破滅ルートは、二人揃っての打ち首か、国外追放じゃね?」


 血の気が引く。

 他人事だと思って軽く言いやがって……。


「そうね……。悪役令嬢役とも取れなくもないし……。

 元悪役令嬢役のリナ様のご意見も聞きたいわね」


「う~ん。あーしは、他を圧倒したかんね。この人には誰も近づけなかったし。

 要は第二王子が他の女に惚れなければ良いわけじゃん?

 第二王子の心を鷲掴みにして、エンディングまで行けば良いんじゃね?」


 ……簡単に言ってくれる。

 私も一応は、魔眼を持っている。第二王子の好感度を知ることは出来るのだ。

 そして、今はMAXだ。

 他の女の入り込む余地などない。ないのだけど……。前世の自分を思い返し、このまま行けるとは思えない。

 この世界に来てから、何度も足を掬われているのだし。

 最悪、この世界が望むのであれば、決闘で殺される未来もあり得る。

 闇落ち系のキャラが出て来た時点で終わりなのも予測出来る。


「ふむ。僕は良く分からないが、マリアを擁護することに変わりはない。

 どんな状況になっても、妹を見捨てる兄などいないからね」


「エヴィと同意見だ。破滅フラグとやらを踏んだとしても、俺も全力で擁護する」


 涙が出てしまう。嬉しいよ、ブラザーズ。

 前世でも、あんた達みたいな兄貴が欲しかったよ。


「話を進めますね。今後の大きなイベントとしては、 魔法学園との対抗戦、不作、魔物の氾濫スタンピード、決闘の連戦、各種パーティー、そして運命の相手との出会い、が予想されます」


「運命の相手との出会いとは、なんですの?」


 私の知識にない言葉だ。多分だけど、1stか3rdのイベントなんだろう。


「マリアさんからその人を求めてしまう……。そういう相手が現れる可能性があります」


 ほう? その相手でも良いんじゃないか? いや、罠であり破滅フラグ直行ルート?

 ここで、エヴィお兄さまの表情がきつくなった。

 それを、シルビアお義姉さまがなだめる。


「私が運命の相手を選ぶと、どうなりますか?」


「王国が亡びます」


「ダメじゃん!」


 全員の爆笑が起きる。笑い事じゃねぇんだよ!


「ゴホン。……分かりました。自制心を持ってその相手を振れば良いのですね?」


「そうしてくれると助かります。それと、破滅フラグ回避にもなりえますので、覚えておいてください」


「一人だけ生き残って、王国中の人に破滅フラグを踏ませる……と。選びません!」


「うふふ。マリアさんが優しい人で良かったですわ」


「それよりも、決闘の数を減らして貰えませんか? 今日など遠い異国からの挑戦者でしたよ?」


「う~ん。ジークのシナリオにはなかったイベントですよね……。無理かな?」


「ダメじゃん! 殺される未来しか見えないよ!!」


 全員が、優しい笑顔で私を見ている。

 あ、リナ様だけは、お腹抱えて笑っているか。


 いやさあ、そんな顔で見られても困るのだけど。正直、未来は不確定だ。

 ゲーム知識も役に立ちそうにない。


 深いため息を吐いた。


『……どうすっかな~』



  ―完―

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学園を追われて開拓村へ~だけど、元婚約者が最終武器を持って来た~ 信仙夜祭 @tomi1070

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