おまけ_第5話 マリア・ヘリオドール5

 私の上の兄夫妻も席に着いた。


『はぁ~』


 心の中でため息を吐いた。ただし、外面は笑顔を保っている。

 この夫妻にも言いたいことが山ほどある。


 まず、上の兄……ロイエだ。

 容姿端麗、頭脳明晰の才色兼備。性格は真面目の一言。

 剣の腕も確かであり、国王陛下直属部隊所属。

 優良物件としか言いようがない人物だ。ただし、ゲームの攻略対象には含まれない。

 それと、一つだけ大きな問題を抱えている。


 それは……、女の趣味が悪いのだ。


 2ndのストーリーでは、一人だけこのロイエと結ばれる令嬢がいる。

 それが、癇癪令嬢ナリスだ。

 2ndの主人公とナリスが友人となると、1stの主人公が寄って来る。

 1stの主人公が、ナリスと中途半端な好感度の状態で別なルートに入ると、ナリスが他の攻略対象に暴力を振るうイベントが発生してしまう。

 イベントの回避策として、下の兄経由でこのロイエが登場するのだ。

 ロイエとナリスの一騎打ちが行われて、互いに剣の腕を認め合い意気投合。

 その後、恋人として家族に紹介するイベントが起きる。

 ただし、婚約するかは分からなかった。あくまで恋人としての紹介までであったからた。


 昔を思い出す。

 長期休みに入り、実家に帰っていた時のことだった。

 ロイエお兄さまが、突然人を連れて来ると言い出したのだ。


『あ~。ナリスか~。まあ、今の私なら良い勝負も出来るだろうな~。

 それに、人気は低かったけど、私的には好きなキャラなんだよな~。まあ、大丈夫かな~(棒』


 また、気を抜いてしまった。

 この世界のことを知っている、未来を予測出来る。

 何度も同じ失敗を繰り返しているというのに、またやってしまった。


 ドアが開かれて、ロイエお兄さまに紹介されて入って来たのは、下の兄の元婚約者だった。


「ナリスじゃねぇのかよ!?」


「え?」


「あ……、忘れてください」


 人生最大の不覚とも言える。少なくとも人生ワースト5に入る大失態だった。

 自分の突っ込み属性が、恨めしい……。

 私が、転生者であることがバレてしまった瞬間であった。

 それと、両親は固まっていた。 次の日に、父上は再度の入院となった。かなり深刻な胃潰瘍だそうだ……。

 長期入院かな……。


 その後、エリカ様から、この世界の説明を受ける。


「1stの主人公であるジークフリートが、歴史を変えてしまった? それを、下の兄が元に戻したと?」


「私はそのお手伝いをしたの。王国のバッドエンドは知っているでしょう? その回避に動いていたの」


 ……知らないんです。メインストーリーと言うか正規ルートしかプレイしていないんです。

 でも、言えない。言えば、この後どんなルートを取らされるか分からない。

 今の私は、悪役令嬢ポジションだと思っているのだから。


 その後、他の転生者と下の兄と2ndの主人公の説明を受ける。


「国王陛下とリナ・スピネル様ですか……。クリエイターと3rdの主人公。

 それと、2ndの主人公が、下の兄とくっついたと……」


 信じられなかったが、下の兄は戦争の英雄となっている。公爵位も賜っている。

 ゲームの世界とは異なる歴史。確かにそれだけは断言出来る。

 同じなのは、キャラクターと世界観だけだ。


「それと、マリア様のことを調べておいたわ。随分と派手に活躍されているのですね?」


『ちげぇよ。何故か知らないけど決闘を挑まれ続けているんだよ。

 そもそも、2ndのゲーム内じゃ、マリアはほとんど出てこないじゃねぇかよ。

 マリアの歴史知らねぇし、裏設定とかあったらこっちが聞きてぇんだよ』


 そして数ヵ月後、お忍びで国王陛下との面談となった。ちなみに、この時のリナ様は国外逃亡中だったな。

 マリアの歴史を聞いたのだけど、設定にないと言われてしまった。

 つまりは、自由に行動しても良いと言う事か……?

 ここで、国王陛下が考え出してしまった。

 数分の沈黙……。

 そして、国王陛下が口を開いた。


「もしやと思うが、そなたはジークの代わりとなっているやもしれんな?

 そなたの行動次第で、この世界の未来が決まるやもしれない……」


「1stってギャルゲーじゃねぇのかよ!? 女性主人公のギャルゲーってなんだよ!?」


 思わず突っ込んでしまった。

 国王陛下とエリカ様は、大爆笑だ。


「そうじゃな……、ゲーム名は『ロードクロサイト学園1st.Verマリア~剣姫編~』となるであろう」


「なげぇよ! 後付け感はんぱないよ!? 単純に4thで良いじゃん!? それに女性主人公のギャルゲーの回答になってないよ!?

 大体、今の状況なんなんだよ!? TS転生でもねぇじゃん!!」


 二人がお腹を抱えて笑っている。他人事だと思って……。


「今ので確信が取れました。あなたは、1stの主人公なのね。そうなると、2ndの主人公は第二王子かな?

 3rdの主人公もいそうね。魔法学園の方は、私の方で調べてみますね」


 ……ぐ。

 そんな確信を持って言われても……。

 だけど、2ndにはジークフリートも少なからず出て来る。ぶっきらぼうな性格だけど、困っている人を見捨てない。

 今までの私の行動を考えると、私と同じと言える。

 アクアマリン公爵令息の件など良い例だ。それと、他人の恋に手助けすることも……。


 その後、三人で今後のことを話し合い、ストーリーを決めて行くことになった。





 ──コンコン


 昔を思い出していると、ドアのノックが鳴った。


「どうぞ、お入りください」


「失礼します。皆さま、ごきげんよう」


「ごきげんよう。エヴィお兄さまとシルビアお義姉さま」

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