おまけ_第4話 マリア・ヘリオドール4
オーソクレース夫妻が、椅子に座った。
私も移動して、テーブルを囲む位置に座る。
「調子はいかかですか?」
「はい。つわりも収まり安定期に入っておりますので、問題ありませんわ」
リナ夫人がそう言うと、夫が頭を撫で出した。
夫婦仲は、円満なようだ。
だけど、私は知っている……。
『こいつは、猫被っているだけだ』
本来の話し方は、雑と言うしかない。精神年齢は高校生であり、性格は前世を色濃く反映している。
まあ、同じ庶民だった私が言えることではないんだけど。
この夫妻は、王国中で話題となっている。
夫妻の悲恋は、本となりベストセラーとなった。今度、ミュージカルが上映されるらしい。
話の内容はこうだ。
学園生活中に婚約を果たした二人は、卒業後に正式に婚姻しようとした。
だが、夫側の両親の大反対があり、破談となる。
原因は、貴族らしからぬその天真爛漫な性格だ。
公爵家からの莫大な慰謝料を条件に破談を言い渡された二人は、国外逃亡。
親と家を捨てて、帝国へ逃げる。
リナ夫人は、飛竜を【テイム】しており、王国側は誰一人として捕まえられなかったそうだ。
そう、私の上の兄であってもだ。
王国最強を誇る国王陛下直属部隊でさえ、リナ夫人は蹴散らせられるらしい。
それほどの魔導具を持っているとのこと。
その後、帝国領の小さな街で慎ましやかに日雇い労働にて生活していたらしい。
ここで、矛盾を感じる。
『冒険者登録すれば、魔物を狩りまくって一日で大金持ちじゃねえの?』
余計な思考が過ったが、話を元に戻そう。
夫の方は、商店でアルバイト生活を送っていたが、商才を発揮して一ヵ月で町一番の店に成り上がらさせたらしい。
こちらはまあ良い。元々、宰相を輩出している家系の令息なのだ。頭は良いんだろう。
夫人の方は、山菜採りや針仕事で家計を助けていたらしい。
こちらは、明らかに嘘だ。
『山菜採り? 魔物狩りの間違いだろうに。
針仕事? 本当は、土木関係の破壊作業だろう?』
事の真偽は分からない。
帝国の小さな街に使用人を送り、情報を集めようとしたのだけど、住民は口を閉ざした。
もしくは、そんな若い夫妻を見ていないと言われた。
『……よっぽどのことをしたんだな』
そんな甘い新婚生活も、長くは続かなかった。
公爵家の追手が追い付き、二人を捕えたのだ。
二人は、成す術なく王国に連れ戻される。
『飛竜のブレスで一発じゃねぇのかよ?』
その後、二人は隔離される。
夫の方は、監禁状態だったそうだ。そして、食事を拒否して本当に死にそうになった……。
ここで、問題が発覚する。
夫人の懐妊が、発覚したのだ。
これには、両家共に大慌てである。
そしてその話は、あっという間に王国中に知れ渡る。
国王陛下の耳にも入り、公爵家は国中から非難を浴び、宰相の座から降ろされる始末。
そして、国王陛下自ら二人に会いに行ったのだそうだ。
夫の方は、水すら飲まずに衰弱しきっており、餓死寸前だったとのこと。
それを見た国王陛下が、
条件は、スープとパンを残さず食べきること。
夫の眼に光が灯り、夢中で食べたらしい。
そのまま、国王陛下が、夫である元公爵令息を連れて夫人の屋敷に向かう。
夫人の方は、お腹の子供のこともあり、大人しく生活していたそうだ。
悲しみに暮れて生活していたのだそうだが、夫と再会すると喜びの余り抱き合い大声で泣いたそうだ。
それを見た国王陛下が、宣言なされた。
「この夫妻に、伯爵位を与えて独立させる」
この話は、瞬く間に王国全土へ広まった。
国王陛下への信頼度もうなぎのぼりだ。
その後、新しい屋敷を構えて、二人で生活を始めることになる。
夫の方は、王国の政治部門に所属して敏腕を振るっているらしい。
話だけ聞くと、美談と言える。
そう、このリナ夫人を知らなければ……だ。
腐女子だった私だからこそ分かる。
『悪どい……。いや、腹黒い。この女、ぜってぇ計算してやってやがる』
私には確信がある。事の真偽など、確かめる必要などなかった。
その後、同じ転生者として紹介された。
今後のことを話し合う必要があったためだ。
◇
──コンコン
軽い雑談をしていると、ドアのノックが鳴った。
「どうぞ、お入りください」
「失礼します。皆さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう。ロイエお兄さまとエリカお義姉さま」
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