第38話 幸せ

「どうして私……そんなに……?」


 少し落ち着いて、キュニーに問いかける。

 それにそんなに長く寝ていて、食事とかはどうしたのかな……点滴とかはついてないけど……


「ルミ……その……ルミもう人間じゃなくなっちゃった」

「えっと……どういうこと?」


 人間じゃない?

 何も変わってないように見えるけど……


「えっとね。最初から話すと……私って竜だったし、今もその名残は結構あるけれど……魔力量が多いじゃない?」

「そうだね。沢山魔法使って魔力切れになってるところは見たことない……わけじゃないけど」


 デミニウムの時を思い出す。

 あの時はキュニーからはほとんど魔力を感じなかった。


「うん……でもルミはそんなに多くない……その偏りが良くなかったみたい」

「偏り……?高濃度の魔力は良くないってやつ?」


 高い魔力は体内の魔力を狂わせる。

 だから魔力測定されてない水や食料を食べたりはしない。魔力測定されてなくても、魔力が流れていたら気付くだろうけど。


「そう、それ。少しぐらいだったら大丈夫だったんだろうけれど、私の大きな魔力はルミに少しづつ影響を与えていったみたい」

「そうなんだ……」


「ルミをここの計測機で測った時、ルミの身体の4割は魔力情報になって、魔力に置き換わってた。その強い魔力の影響……なんか違和感とか感じたことない?」

「違和感……?お腹が減りにくかったとか……?あと、なんだか足が速くなってた気がする」


 あんな小さな携帯食料でも10日ぐらい経って、ようやくお腹が空くぐらいだった。

 森でキュニーから逃げた時だって、帰る時は来た道のりすごく長く感じた。


「そういうのだね……それでね……ここからが重要なんだけれど……」

「うん」

「ルミ……もう全身が魔力なの。そうしないと治せなかったみたいで……だからもう人間じゃないっていうか……私が無力だからそんなことに……」


 キュニーが俯く。

 声が小さくなっていく。


「キュニー……でも、それってキュニーと同じだよね?」

「……そうだけど……ルミは人間のままが良かったでしょ?魔力生物なんてそんなのに……」

「ううん。いいの。そうなってもキュニーと一緒にいれるから」


 そう。それだけでいい。

 キュニーと一緒にいれるならなんだって。


「ルミ……」

「それに、これなら寿命も気にしなくていいんでしょ?それならずっとキュニーといれるね」


 魔力生物は魔力が切れない限り……保有してる魔力情報を維持できるだけの魔力さえあればずっと生きていられる。


「うん……それはすごく嬉しい……!でも……」

「それともキュニーはこんな私はでも好きでいてくれるんでしょ?魔力しかない私でも」

「それはもちろん!ルミはルミだから!」

「なら……いいじゃん。全部これでいい」


 そう。

 私がキュニーの隣にいること。

 キュニーが私の隣にいること。


 そうなってるならあとは全部些細な問題。


「ほんとに……?ルミがそうなったのは私といたからなんだよ……?」

「うん。キュニーと一緒にいてそうなるなら、それが私にとって1番だよ」


 キュニーを抱きしめる。

 キュニーに抱きしめられる。


「ルミ……ありがとう」

「うん……ずっと一緒にいようね」

「うん……!」




 あれから……私がキュニーとずっと一緒にいたいって思った日……魔力生物になった日からどれぐらい経ったのかな……私は今、座って魔力を練っている。

 けれどあんまりうまくいかない。

 ……もう少し少ない魔力からやった方がいいかな。


「ルミ!」

「わっ」


 キュニーが後ろが飛びついてくる。キュニーの白い髪が横から垂れてくる。キュニーの暖かさを感じる。

 暖かくて心地いい。


「キュニー……どうしたの?」

「えへへ」


 あれからずっとキュニーと一緒にいる。

 いろんなことがあったけれど、キュニーと一緒にいたいって思いは変わらない。キュニーが好きだから。


「なんか抱きしめたくて。ぎゅー」


 キュニーの腕が私の身体に絡みつく。

 キュニーの存在を感じる。

 こうやって、キュニーとくっついている時が1番嬉しい……幸せを感じられる。


「私もぎゅー!」

「わっ!」


 身体を捻って、キュニーの身体を抱きしめる。


「これまで……いろんなことがあったよね」

「うん……」


 ほんとにいろんなことがあった。

 世界の危機から私の危機、キュニーの危機。


「なんとかなったこともあるけど、失敗しちゃったこともあるよね」

「うん……でも、私達一緒にいる」


 だから大丈夫。

 キュニーと一緒にいるから、どうなっても大丈夫。


「これからもずっと一緒にいたい……ずっとルミと」

「うん……私もキュニーとずっと一緒にいたい」


 その思いはずっと変わってない。

 ずっと一緒にいてるから、いろんなキュニーを見て、知ってきた。それでも、ずっと一緒にいたい。

 いろんな私をキュニーは知っている。それでも、ずっと一緒にいたいって思ってくれる。


「キュニー……好き」

「私もルミが好き」


 どんな私でも……どんなことを思っている私でも、どんなことをした私でも好きって思ってくれるから。

 どんなキュニーでも……どんなことを思っていても、どんなことをしてもキュニーが好きだから。


 こんな日がずっと続く。

 キュニーと一緒にいれる日々が。ずっと。


「私……幸せ。ルミと一緒にいれるから……こうやってルミと話せるから……こうやってルミと抱き合えるから……」

「うん……私もキュニーと……こうしてるときが……幸せ。そう思えるのも、キュニーがいてくれるから……隣にいてくれるから」


 心は穏やか。

 キュニーが隣にいればずっと穏やか。

 幸福を受け入れて、幸せを感じれる。


「ルミ……ありがとう。

 私を求めてくれて……私を受け入れてくれて……私を守ってくれて……私の隣にいてくれて……私を好きでいてくれて……私と一緒にいたいって思ってくれて……」


「キュニー……うん……そうだね。

 私も……私もキュニーが、私を求めてくれて……受け入れてくれて……守ってくれて……隣にいてくれて……好きでいてくれて……私と一緒にいたいって思ってくれて……ありがとう」


 魔力が……心が通じ合う。

 キュニーがいてくれたから……こんな風に思ってくれるキュニーがいてくれたから……私は幸せを感じる。


「キュニー……ずっと一緒にいたいね」

「うん……私達ならずっと一緒にいれるよ」


 うん……うん……

 ただ頷く。

 私の髪とキュニーの髪が絡め合う。

 キュニーの魔力と私の魔力が絡め合う。


 ずっとこうしていられる。

 ずっと。これからずっと。


「ルミ……もう少し……」

「うん……」


 私とキュニーは抱き合っている。

 心地いい。


 お互いの身体に頭を埋めている。

 安心する。


 お互いの白い髪を絡ませている。

 気持ちいい。


 お互いの体温を感じている。

 暖かい。


 お互いのことを感じている。

 楽になる。


 お互いと一緒にいる。

 嬉しい。


 お互いのことを好きでいる。

 幸せ。


 ずっと……ずっと私達はこうしている。

 ずっと、こうしていられる。

 ずっと。いつまでも。

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役立たずの欠落少女だって ゆのみのゆみ @noyumi

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