「さぁ、成り上がるぞ。ーーー全員に、公平なチャンスをくれてやる為にな」

 

 ーーー結局、隣国の誰が俺を嵌めたのかは分からなかったな。


 アルゴは、その点だけが不審だった。


 コルレオが単独で、隣国の意向もなく動いたという線はないこともないが……本人には告げなかったが、やはり現状ではソリッドの疑いが一番濃い。


 しかし、隣国の大公家と繋がっているという言葉が真実で、スオーチェラがそれを確認しているのなら、そちらは彼女に尋ねてみれば済む話である。


 隣国の大公とやらが、表でいい顔をしながら裏でこちらの王家を潰そうと目論んでいる、という線も考えられるが、そこまで行くと、現状のアルゴではもう確かめる手段がなかった。


 そして、ソリッドがどちらとも繋がっていると言う可能性も捨てきれないのである。


 ーーーまぁいい。


 そもそも元から、損をさせられたことそのものは、気にしていなかった。

 いずれ、アルゴやスオーチェラが邪魔なのなら更なる妨害があるだろう。


 コルレオ以外の連中の尻尾を掴むのは、その時でいい。

 自分の店に戻ったアルゴがドアを開けると、そこにはいつものメンツが揃っていた。


「お、話し合いはどうだったんすか?www」

「順当に終わった。お前にいい報告がある」


 ニヤリと笑ったアルゴは、借金のことを報告した時と同じように、イーサがどんな表情をするか楽しみに思いつつスオーチェラ夫人の言葉を口にする。


「古代遺跡の研究を行う組織のトップは、お前だそうだ。ずいぶんな出世だな」

「え゛」


 ビシッと表情が固まった彼に、アルゴは夫人から預かった巻物を差し出す。


「これが、計画書だそうだ。詳細はこれから詰めるらしいが、読んでおけ、という話らしい」

「……………………あ゛の゛」

「ちなみに『断らせると思いますか?』と言っていたが、どうする?」

「それ、絶対ダメなやつじゃん!!!! スオーチェラ伯母様マジで頼むよォオオオオ!!! そのムーヴはヤベエってェエエエエエエッッ!!!」


 ガチで嫌そうな顔で、頭を抱えるイーサを、ウルズが頬に手を当ててクネクネと身をくねらせる。


「はぁ〜……イケメンが苦悩してる顔ってご褒美ですねぇ……」

「ウルズ」

「はひ?」


 何だか夢見心地の彼女にも、アルゴは先ほど出かける前に受けた報告を口にする。


「お前が所属する『煉竜傭兵団ヴォルカニック・ドライヴ』と、連絡が取れたらしい。招集をかけたら快諾したそうだ。夫人と俺が、共同で出資して雇う」

「ほっ、ホントですか!? ご主人様!!!」


 パッと顔を輝かせたウルズに、ふとアルゴは問いかける。


「そういえばお前、その首輪はどうするんだ?」

「ほえ?」

「別にもう必要ないだろう?」


 そもそもSランクダンジョンで獣化した時に、ほぼ千切れかけていたものだ。

 効力は多分失われているのだが、彼女は不恰好ながら縫い直してつけているのである。


「必要はないですけど、ご主人様からもらったものですから!! それに、ご主人様はご主人様で、ご飯をいっぱい食べさせてくれる約束です!!」

「……まぁ、お前がそれでいいならいいが」


 アルゴには、すでに行動を束縛するつもりはないため、本人が納得しているのなら何も問題はなかった。


「あ、アルゴ?」

「何だ?」


 仲間の『雷迅の戦団ライトニング・アサルト』が換金を終えて戻ってきたと言っていたのに、なぜか居るエルフィリアの問いかけに、顔を向ける。


「ボクの仲間にも話したらさ、魔物狩りギルド抜けて冒険者ギルドに入りたいって言ってるんだけど、いい?」

「構わんが。むしろ歓迎するべき話だな」


 そもそも高位の魔物狩りが発足当初から加入しているとなれば、ハクがつく。

 受け入れこそすれ、断る理由など微塵もなかった。


「魔物狩りの難易度や報酬額に関しても、お前たちと話せるならありがたい。俺は物の取引については大体の原価や相場を把握するつもりだが、実務側の意見は加味したいところだ」

「なるほど、ならそう伝えておくよ。後もう一つ」

「聞こう」

「うちの御師がさ、今回の話をしたら、君に会いたいって言ってるんだよねー。なんか伝えたいことがあるとかで」

「……伝えたいこと?」


 面識もない相手からの言葉に、アルゴはかすかに眉根を寄せた。


「何故だ?」

「知らない。でも、別に怪しい人ではないよー。誰かを会わせたいとも言ってたから、その件と合わせてこっちに来るって」

「そうか」


 まぁ、彼女自身も要件を知らないのなら、今尋ねる意味はない。

 了承だけして、アルゴはオデッセイに目を向けた。


「オデッセイ。セガーレはどうだ?」

「完全に根性なしだな! 体使う作業はからっきしだ!!」

「うう……」


 少し痩せたセガーレの教育は、一旦オデッセイに預けた。

 そもそもカークやキッシィ、クレセンドなどの取り巻きの面倒を見ていた彼は、予想通りに世話焼きだった。 


 オデッセイは口やかましいが、無茶なことを言ったりはしない。


「だが、文字の読み書きや理解に関しては、俺サマよりも上だな! 賢いと思うぜ!!


 このように、実際に長所も見ているのである。


「ある程度体を使えないと話にはならんが、ある程度でいい。それなら、冒険者ギルドの基礎的な事務仕事の方を任せて行くことにしよう」


 受付業務くらいなら、任せても大丈夫な程度にはなってもらわないと、流石に困る。


「カークも戻ってくるみてぇだしな! 今度こそ改心してりゃ、ゲンコツくらいで済ませてやるつもりだ!」

「ギルドに入れるなら下働きだぞ」

「あ? 入れてくれんのか!?」

「任せる」


 キッシィとクレセンドは、そこそこ使える。

 大体、セガーレを許している時点でカーク程度の小悪党を許さない理由もないのだ。


 サンドラは、ギルド構想そのものに関わるつもりはないらしく、シシリィと共に暮らす場所だけ提供しておいた。


 ギルドが設立されたら、一冒険者として所属するそうだ。


「で、いつまで凹んでるんだ?」


 アルゴは、まだ突っ伏しているイーサに声をかけた。


「やらんなら逃げるという手もあるが」

「いや……まぁ、アルゴさんについていくって決めたのはオレなんでw」


 顔を上げた彼は、うんざりした口調ながらも苦笑を浮かべていた。


「ちゃーんと、やるスよwww」

「そうか」


 アルゴは改めて一同を眺めると、少し崩したオールバックの髪に軽く指を通して、片頬に笑みを浮かべる。


「金と権力の算段は立った。近日中に、冒険者ギルドを発足する。理念は『誰にでも公平なチャンスを』だ」


 仲間たちはこちらに顔を向けて、黙って聞いていた。


「路地裏でゴミ漁りしてる奴、他人に自分を買い叩かれるのが我慢出来ない奴、食うに困って彷徨ってる奴……誰でもいい。男でも女でもいい。這い上がりたい奴の為の組織だ」


 アルゴは片頬を上げて、ニヤリと笑う。




「さぁ、成り上がるぞ。ーーー全員に、公平なチャンスをくれてやる為にな」



 

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無敵メンタルの商人は、世界を牛耳る冒険者ギルドを作り始めるようです。 メアリー=ドゥ @andDEAD

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