舞台裏10 それぞれのその後

 昨日ギルドに行って、借金を返済し、借金奴隷になる心配がなくなったミハルは、晴れやかな気分で、マーサルと一緒にエドワードの荷馬車に乗って、ミマスを出発するところであった。

 予定通り、今日明日で王都までエドワードを護衛することになる。


 そんなミハルに目を留める者がいた。

 Aランクパーティ「雷光の隼」のリーダー、ハベルトである。


「おい、あれ、プランさんじゃないか?」

 ハベルトがミハルを指さし声をあげる。


 釣られてメンバー全員が荷馬車の方を見る。

「え、どれどれ」

「あの荷馬車に乗っている!」

「似てるけど違うだろー」

「どこ見てるのよ。プランは黒髪よ。あの子は茶髪じゃない」

 昨日ギルドに行った時は黒髪に戻していたミハルたちであったが、ギルドから出て直ぐに、髪の色を変えていた。


「それに、あの格好は冒険者よ。プランがそんなことするとは思えないわ」

「そうか、プランさんだと思うんだけどな――」

 皆に否定されたが、ハベルトは納得していないようだ。


「しかし、ミマスでは見かけない顔だな。王都の冒険者か?」

 サベロはミハルの顔を見ても、プランタニエだとは全く思っていないようだ。


「どうせ、王都から護衛依頼で来てるんでしょ」

「こっちのギルドが止まってるから、王都から来る商人が多いものねー」


「この混乱、いつまで続くのかしら?」

「新しいギルマスが明日には来るという話だが、今まで通りに戻るまでにはしばらくかかるわよね」

 ヤリスとブローネの二人は、既に次の話題に移っている。


「そうだな。それにも関わってくるんだが、どうも昨日の夜マリーが脱走したらしい」

 そこで、サベロが今朝仕入れてきたばかりの情報を提供する。


「それは本当なのか?」

「信じられないわ! だってマリーは罪を犯せないように神罰を受けたって話よ」

「そうね。脱走すれば、神罰で死ぬことになるんじゃない?」


「それなんだがな、警備隊長がマリーを連れ出したらしい」

「え、マリーは警備隊長にも手を出していたの?!」

「そのようだな」


「つまり、警備隊長が勝手に連れ出したから、マリーに神罰は落ちないってこと?」

「そんなのが通るの?」

「それはマリーを捕まえてみないとわからないな」


「どの道、警備隊長が裏切ったとなると、この混乱はまだまだ続くな――」

 メンバー全員が溜息をつくことになる。


「どうだ、この際、これを機に、俺たちも王都に拠点を移してみては?」

 サベロが思い切ったことを提案する。


「王都にか……、競争が激しいんじゃないか?」

 ハベルトは乗り気ではない。


「でもよ、あの二人の冒険者、護衛依頼で来てるということはCランク以上だろ。あの二人でもやっていけるなら、俺たちでもなんとかなるんじゃないか?」

「馬鹿ね! 見た目で判断してると痛い目を見るわよ。でも、王都に拠点を移すのは賛成よ」


「お、ヤリスも乗り気なのか。ブローネはどうよ?」

 ヤリスが賛成したことに気をよくして、サバロはブローネにも尋ねる。


「そうね。取り敢えずこちらの混乱が収まるまで、王都に行ってみたらどうかしら。それで、こちらが正常になったら、戻るかどうかまた考えましょう」

「これで一時的にでも王都に行くのが三人だぞ、どうするよリーダー?」

「わかったよ。拠点を移すかどうかはともかく、一度王都に行ってみよう」

 三人が賛成したので、そこまで反対する理由がない。

 それに、ハベルトはさっきの冒険者の女の子のことがまだ気になっていた。


 こうして、雷光の隼は王都に移る準備を始めことになった。



 一方、警備隊長により連れ出されたマリーはと言うと。


「痛い、痛い、痛い!」

「マリー。大丈夫か?」

 警備隊長が心配そうにマリーに尋ねる。


「大丈夫じゃないわよ! 牢屋から出てからずっと痛いのよ。どうにかしてよ!!」

「隣国のマーザニアに知り合いの元司教がいる。邪神の魅力に取り憑かれ、教会から追われた男だ。俺が、マーザニアまで逃してやった。そいつならどうにかしてくれるはずだ。それまで我慢してくれ」


「マーザニアまで、このまま馬でどれだけかかるのよ」

 マリーは、警備隊長に抱えられて馬で逃げていた。

 馬は早足で歩いていた。

「この速度なら一週間といったところだ」


「一週間なんて持たないわ。その前に死ぬわよ!」

「わかった。なんとか五日で着けるようにしよう」

 たとえ、これで馬が駄目になっても構わないと、腹を括り、警備隊長は馬の足を早めた。


「それでも、五日もかかるの?!」

 マリーは絶望で気が遠くなり、そのまま気絶してしまった。



 元ギルマスのキールは、ウドと同じ牢屋に入っていた。

 マリーは警備隊長の手引きにより脱獄したが、キールに、脱獄に手助けをしてくれるような者はいなかった。

 このままでは晒し首になることは明らかなので、キールはウドに「一緒に脱獄しよう」と誘った。


 しかし、ウドの答えは予想外のものだった。


「キールさんも神に懺悔し、清らかな体になって、罪を償いましょう」


 ウドが完全に洗脳されていると感じたキールは、教会に戦慄を感じた。


 そして、脱獄にウドの協力を得ることは不可能だと悟った。

 しかし、脱獄を諦めたわけではなかった。



 サブマスだったリーザは、教会の馬車で、山奥にあるカリスト修道院に向かっていた。

 この修道院は、いくつかある修道院の中でも一番規律に厳しいとされ、生きて逃げ出せた者はいないといわれている所だ。


「何で私がこんなことに、何で私がこんなことに、何で私がこんなことに、何で私がこんなことに」

 リーザは馬車に乗っている間ずっとそう呟いていた。

 既に精神を病んでしまったようだ。


 同乗していたシスターは、同情の目でリーザを見ていた。



 聖女は昨日、王都の教会に着き、今は部屋で寛いでいた。

「結局ミマスまで行っても、黒神様の行方は知れませんでしたわ」

 実は帰りの道中にすれ違っていたのであるが、馬車の窓を閉め切っていた聖女が気付くことがなかった。

 まあ、仮に窓から外を眺めていたとしても、髪を染めているミハルが黒神様だと気付くことはなかっただろう。


 聖女が、プランタニエがミマスのギルドに現れたのを知るのは、数日後のことだった。



 ミーヤはコメットさんを抱えて、ミハルの帰りを、恐怖に震えながら、今か今かと待っていた。


 第一部 借金奴隷編(完)

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黒髪だからと罪を着せられ奴隷にされた『元ギルドの受付嬢』黒髪青年に助けられチート魔法で『冒険者』生活満喫中! その頃、元いたギルドは大混乱! なつきコイン @NaCO-kaku

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