友達じゃない

 夏休みが嫌いだ。

 

 俺の親はバカみたいに厳しい。だから夏休みなんて遊ぶ約束をする友達を尻目に、勉強しかできない日々を送るだけだから。

 おまけに今年は部活すら無い。

 せめて家から出られる塾のほうがましだが、その塾も早い時間で終わってしまう。そんな気が重い夏休みがはじまった。


 素直な良い子の俺は親に文句を言われないよう、課題を先に片付けようと机に向かっていた。


ポン

 スマホが軽い音を立てて、友達からグループチャットが来た。

「花火大会するわ」

「どこで?」

「俺んち集まってからどっかに移動で」

「おまえが大会すんのかよw」

「今年、祭り中止らしいよ」

「まじか」

「ライターもってる?」

「アロマキャンドルとライター持ってく」

 夏らしいイベントに仲間内で盛り上がっている。


「おれ無理出らんない」


 親に相談しなくとも、暗くなったら塾と部活以外は外に出られないのはわかっていた。その上、こっそり抜け出す気力は俺には無い。


ポン

「おまえさ、今から友達じゃないから」


 花火の計画を言い出した奴から、急に絶交された。

 胃を鷲掴みにされたような感触と動悸がしてうずくまる。

「……俺が何したんだよ」

 しばらく机に向かったまま呆然としていた。


 しばらくして、窓の外から賑やな若者グループの声がした。今の俺には何よりも聞きたくない音だ。


シュバッ

スパーン


 外から破裂音。

 一体何だ? と窓を開けて外を見ると、さっきまで友達だと思っていたあいつらが、家の前の道路に集まっていた。


 窓から覗いた俺の顔を確認すると、両手を広げひらひらさせている。なんのつもりだ? 呑気にヘラヘラしやがって。


バシュッ


ヒュルルルル


パーン!!!


小さな打ち上げ花火が開いた。


 なにやってんだ? あいつら。

 彼らは驚く俺に向かって、拳を突き上げるジェスチャーをして、走り去ると同時に、一階からのしのしと階段を上ってくる足音がした。足音だけでも怒りがわかる。再び重い気持ちにもどる。

「おい、なんだ今の? おまえの友達か?」

 ノックもしないで部屋のドアを開け、半ば怒鳴り声で親父が話しかけてきた。


「違うよ。友達じゃない」

 一方的に絶交されたことを思い出し、消え入りそうな声になる。

「そうか」

 俺の様子がよっぽど哀れだったのか、親父は珍しく直ぐに引き下がった。


ポン

 グループチャットの通知音。

 スマホには「いまからまた友達になって。大人になったら花火しよ」と表示されていた。


 なんだよ……胃に悪い。ほんとサプライズとか無理なんだけど……。仕方ねぇ奴らだな。ブツブツ言いながら開いたままになっていた窓を閉めた。


 ガラスに映った俺の顔は、自分で引くほど笑顔だった。

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キュンキュン❤️ハニー❤️プリミティブ 山本レイチェル @goatmilkcheese

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