肉食な彼女

※※※百合です※※※


 リリは、生ハム、ローストビーフ、炭火焼きカルビに続いて、合鴨ロースのお寿司が乗った皿を手に取った。


「……また肉だ」

 そろそろ突っ込んだほうが良いかと思い、寿司のチョイスに物申す。リリはそんな私に、なぜか得意げな微笑みを返した。


「私、肉食だから」


 魚肉は肉じゃないのか。と聞こうとしたが、なんとなく野暮な気がして「へぇ」とだけ返す。


「ほんとはユッケとかレバ刺とかさぁ、生肉が食べたいんだよね。ほんとのほんとは焼く前のステーキが食べたい。とにかく、血に飢えている」


「リリはなんで今日、回転寿司に誘ったの?」


「500円でいろんな肉を食べられるのはここしかない。そして、あと1皿」


 リリはハンバーグ寿司を咀嚼しながら、回る寿司に視線を向けた。消費税はどうするんだろう。いや、払ってあげてもいいけど。いつも詰めが甘く、欲望に忠実で、少し風変わりな愛すべき友人を、私は友人以上の感情で愛している。リリは今日も完璧だ。


 あ、いけない。モノローグに耽ると、つい笑顔で彼女ばかり見てしまう。落ち着こう。と視線を手元に戻すと、左手の中指に巻いた絆創膏に血が滲んでいた。さっきペンケースに入っていた刃の出たカッターで、ざっくりやってしまった傷口が、まだ塞がっていなかったらしい。新しい絆創膏に変えようと、傷口を露わにすると、リリがじっとこちらを見つめていた。


「あ、食べてる時にごめんね」

「大丈夫。それよりも、傷口見せて」

 リリは、向かい合わせの席から、隣に移動してきて私の左手を取流。そして、血が滲む中指を咥えた。


「リリ? 汚いよ? 何してんの」

 小声で抗議する私を、上目遣いにチラッとだけ見て、リリは人差し指を舐め回すことをやめない。そして、傷口に歯を立てた。


「痛っ!」

 さっきより大きめの抗議の声に、リリは指を咥えたまま、人差し指を私の唇にあてて「しー」とジェスチャーをした。

 

 私はどうすることもできず、彼女がさっき言った「血に飢えている」という言葉を頭の中で反芻しながら、されるがままになっていた

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