1章 第3話 吹雪に包まれた城下町

 「騎士の人が灰になって、しまいました......」


 何とか騎士団長と呼ばれる騎士を撃破したツバメ。しかし騎士団長は恐ろしい断末魔をあげながら、灰の塊となり果てながら崩れ去った。そのまま灰は宙へと消え、その反対に、ツバメや家に残った壮絶な爪痕はきれいさっぱり無くなった。先ほどまでのことは全て夢だったのかと思うほどの恐ろしさを抱く静寂。しかし、成れの果ての灰の塊だけはそのまま散っていっただけだった。


「あいつはこの王国の騎士団長として長年勤めていた男。それがこんなことになってしまうとはねえ」

「すみません、私、私...」


 殺気を感じた。

痛みも感じた。

このままでは自分が殺されてしまうという恐怖も感じた。

今は絶対に殺されるわけにはいかなかった。だからといって、それでも相手の命を奪う必要があったのだろうか。不気味な寒気を感じずにはいられないツバメをそっとティアが抱き寄せた。


「あんたは何も悪くない。悪いのは、あんたを助けられなかった私と、こんな世の中を統治する女王、それに、この狂った童話だよ」

「童話?」

「ああ、そういえば記憶喪失だったね。私達は何処かに保管されている童話の本に描かれたキャラクター。意識ははっきりあるが、厳密には生物ではない。ただの意志のない偶像さね」

「ただの...?でも、ティアさんは私を匿ってくれました。ルドロックのシステムも教えてくれました。それもただの物語の一幕だと言うんですか?」

「ああ、多分そうだと思うよ。現に、騎士団長は女王の名によって何の躊躇もなく、あんたを殺しに来たが、力及ばず返り討ちにされた。少なくともこの城下町の連中はこのまま凍土と女王の恐怖で結末を閉ざされているのを何も疑問に思っていないだろうさ」


 薄情とも非情とも捉えられる態度。ツバメが踵を返すと、その瞳にこれが真実だと訴えるように、水晶でできたかのような禍々しい城と真っ白の絵の具で塗りたぐったかのように吹雪に埋もれた城下町が映った。

 家も木々も機械も雪に呑まれ、空は一寸の光が無いのにも関わらず、明かりが窓から見える家は一軒も存在しない。戦いと恐怖と寒さで気付かなかったが、この家にも明かりは一切灯っていない。

 決まっている定め、言うなれば終焉の結末を疑いもせず受け入れる世界。


「でも、こんなの...」

「ここはそういう世界なんだ。ここの世界の名は『白雪姫』。想像主にそう呼ばれているこの世界は孤独にただ1人で美しさを求め続けた女王の哀れな最期の物語。今はその本の終章っと言ったところだ」

「ティアさん、貴女も...貴女もなんですか!?」

「私は運命を変えることができない。結局私は、自分の娘を救ってやることもできないんだよ」

「そんなの嘘です!嘘って言ってください!」


 噛みつくように言い放つが、望んでいるような反応は返らず、ティアはうつむき首を左右に振るだけだ。


「そんなの...」

「無理に決まっている」

「まだ...何もしていないじゃないですか」

「もう知ってるんだよ。多分、この物語は何度も『誰か』によって読み続けられている」


 おぼろげだがそれだけは解る。うつむいたまま紡がれる言葉に息を呑んだ。『誰か』に読まれ続けている。つまりこの世界が本の中で繰り返し廻っているのなら、もしそうならば、


「今言っているこの言葉も...」


 ゾッとするような寒気が襲いかかる。この歪んだ世界、もし自分もその住民と同じだったなら、いやもしも記憶を失った理由がその寒気と絶望ならば...、考えたくもない恐怖が彼女の身体を駆け巡る。


「もう、嫌ですよ......こ、んな、こんなの...」


 ティアの諦めと世界の恐怖に追われるように、ツバメは必死にその場を逃げ出した。

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