「彼女の秘密」

有理

「彼女の秘密」


「彼女の秘密」



小町 なな:

(こまち なな)

山菱 鳴海:

(やまびし なるみ)


………………………………………………



なな「ねえ、なーくん。」

鳴海「んー?」

なな「アイス食べたい。」

鳴海「冷凍庫ないの?」

なな「冷凍庫にはあるよ。」

鳴海「とっておいでよ。」

なな「やだー。」

鳴海「なんで?」

なな「今、充電中なのー。」

鳴海「膝の上で何してんの?」

なな「なーくんを補給しておるのです。」

鳴海「ふふ。そうでありますか。」

なな「でも、アイスを食べたいのです。」

鳴海「とっておいでってば」

なな「ジレンマ。板挟み。究極の選択。」

鳴海「また戻ってきていいから、とっておいで。」

なな「うーん。」

鳴海「なな少尉、出撃命令です!」

なな「は!鳴海司令官!なな少尉、出ます!」


キッチンまで走るなな。


なな「なーくんチョコレート?」

鳴海「俺はいいよ。」

なな「なな、コーヒー淹れようか?」

鳴海「あ、じゃあ俺も手伝うよ。」


キッチンへ向かう鳴海。


なな「司令官殿は出撃しないんだよ?」

鳴海「なな、コーヒー淹れるの下手なんだもん。」

なな「インスタントコーヒーに下手なんてありません。」

鳴海「塩コーヒーまた淹れてあげようか?」

なな「いや、あれは、ほら、その。砂糖とお塩にラベリングしてなかったからほら、ね、つい。」

鳴海「あの後すぐ貼ったもんね。」

なな「あんなになーくんの悲しそうな顔初めて見たもん」

鳴海「さすがにもう間違えない?」

なな「もちろん!」

鳴海「でも、俺ななと一緒に並んでキッチン立つの好きだからさ。今日は一緒に淹れよ。」

なな「ぐふふ。」

鳴海「なに?」

なな「キュン死にした。」

鳴海「え?」

なな「司令官殿…あとは、任せた…ぐふっ」

鳴海「なな少尉ー!」

なな「ふふふ。なーくん、なーくん」

鳴海「なに?」

なな「耳貸して?」

鳴海「ん?」

なな「お塩入れたかもしんない」

鳴海「ん??」

なな「ごめん」

鳴海「(ため息)」


鳴海N「抜けたところのある可愛い俺の彼女は、壊し屋だった」


……………………………………………


なな「なーくん?何見てんの?」

鳴海「レシピだよ。今度友達のとこでホームパーティーするんだ。一品持ち寄りだから何作ろうかなって。」

なな「なーくん料理上手だもんね。何にするの?」

鳴海「簡単で映えるのがいいよな。被らないやつ。」

なな「これは?」

鳴海「キッシュ?」

なな「ななこれ好きー!」

鳴海「俺も好きだよ。あ、これは?」

なな「わ!おしゃれ!」

鳴海「アクアパッツァ。映えるよな。」

なな「難しそうじゃない?」

鳴海「そう?」

なな「ななも食べたいー!なーくんのアクアパッツァ」

鳴海「ななもおいでよ。」

なな「えー。お邪魔じゃない?」

鳴海「そんなことないよ。もし、居づらかったら途中で抜けてもいいし。あ、ななの友達も良かったら呼びなよ。」

なな「なな友達いないもんー。」

鳴海「そうなの?意外だな。」

なな「意外かな?」

鳴海「だってさ、なな明るいし社交的だし。逆に多そうなイメージだったよ?」

なな「うーん。」

鳴海「大学の時サークルとか入らなかったの?」

なな「入ってたよ。」

鳴海「なんのサークルだったの?」

なな「軽音サークル!でもねー、3年の時に解散しちゃったんだよね。ななは楽しかったんだけど上が揉めちゃったみたいで。」

鳴海「そうか。大変だったんだな。その時の友達とかは?もうあんまり会わないんだ?」

なな「会わないね。就職先も違ったし。」

鳴海「あ、辞めたんだっけ?」

なな「そ!上司がセクハラで問題になっててさ。ちょうど転職時期かなーって。」

鳴海「え。なんかされたの?」

なな「ななは全然何もなかったんだけどね。」

鳴海「職場の同僚とかは?」

なな「うーん。ランチとかは行ってたけどそこまで深い付き合いはなかったかな。営業だったから競争みたいな感じだったし、成績で贔屓もされてたからさ。」

鳴海「大変だもんなー。営業職。」

なな「なーくんだってノルマとかあるでしょ?」

鳴海「まあね。でも俺のとこは建前っていうかさ。そこまで数字にうるさくないからギスギスしてないよ。」

なな「そうなんだ。いいなあ!」

鳴海「なな、うちの受付嬢でもやる?俺推しといてやろうか?」

なな「えー!検討させてくださいっ」

鳴海「どうぞよろしくお願いします!」


……………………………………………………


鳴海「なな?」

なな「あ、なーくんおかえりなさい!」

鳴海「お邪魔します」

なな「ただいまって言ってよ!」

鳴海「慣れないんだから、仕方ないだろ?」

なな「はい、やり直しです!なーくんおかえりなさい!」

鳴海「はいはい、ただいま、なな。」

なな「完璧であります!」

鳴海「お褒めの言葉をどうもありがとう」

なな「ふふ。」

鳴海「これ美味しそうだったから、ななに。」

なな「うわあ!なに??」

鳴海「近くのケーキ屋さんで買ってきた。食べよ?」

なな「食べるー!珈琲淹れるね!」

鳴海「今日はカフェにも寄ったから珈琲付きでございますお嬢さん。」

なな「きゃあ!なーくんは天使様ですか?」

鳴海「ほら、食べよ」

なな「ありがたき幸せー!」

鳴海「はは、元気だなあ、ななは。」

なな「そりゃあなーくんと会ってるんだもん。充電充電!」

鳴海「そんなにコスパ悪い?」

なな「なーくんとバイバイした時点でもう10%以下だよ?」

鳴海「そりゃあ故障だよ」

なな「なーくんが責任とってね!」

鳴海「仕方ないなあ。」


抱きしめる鳴海。


なな「ふふ、すっごい幸せ」

鳴海「安上がりなんだから。」

なな「いいの。こんなこと言えるのなーくんだけなんだから。」

鳴海「ふふ。」


…………………………………………………


なな「美味しかったね!」

鳴海「本当な。偶然見かけた店だったけど当たりだったな。」

なな「今度は一緒に行こ?」

鳴海「そうだな。ななの好みも知りたいし。」

なな「結構バレてると思うんだけどな?」

鳴海「そんなことないよ。この間だってななが友達少ないの初めて知ったし。」

なな「意外ーって言ってたもんね。」

鳴海「いや本当に意外だったよ。ホームパーティーでも俺の友達にすっかり溶け込んでたしさ。」

なな「さすがなーくんのお友達、みんな優しかったもんね。」

鳴海「みんなも言ってたよ。明るくて可愛いってさ。」

なな「あら!高評価!」

鳴海「そりゃあそうだよ。自慢の彼女です。」

なな「褒めても何もでないですよ?」

鳴海「求めておりません。…ところでなな、転職先は?決まりそうなの?」

なな「うーん。悩んでるとこ。」

鳴海「もし、さ。ななが嫌じゃなければ、うちの近くに引っ越してこない?」

なな「え?」

鳴海「俺は、俺の家に来ればいいって思ってるんだけど、急に同棲とかはやっぱり抵抗あるだろ?だから、近所に越して来ればもっと会えるのになって、思って」

なな「なーくん。」

鳴海「あ、いや、その。無理強いはしないから…」

なな「なーくん!」

鳴海「おわ、、」


鳴海に飛びつくなな。


なな「うれしい!ありがとう!」

鳴海「ななの好きなようにしなね。」

なな「優しいなー。なーくんは。」

鳴海「俺ももっとななと居たいしさ。」

なな「ななも!」

鳴海「もっと知りたい。ななのこと。」

なな「…。」

鳴海「実は、ダサいけどさ、あの時ホームパーティーの後友達に背中押されちゃって。ちゃんとななのこと捕まえてないと逃げられちゃうぞって。」

なな「…」

鳴海「なな?」

なな「ねえ、なーくん。ななね。なんで友達いないのか自分でもわかってるんだ。」

鳴海「え?」

なな「言わないようにしてようって思ってたんだけどさ。なな、知り合いになんて呼ばれてると思う?」

鳴海「え?あだ名?」

なな「“壊し屋”って呼ばれてるの。」

鳴海「へ?…あー。なんかドジして壊したの?」

なな「ううん。よく言う“サークルクラッシャー”?ってやつ。」

鳴海「…」

なな「でも、自分が悪いことしてるなんて分かんなくて、友達に相談しても裏切られてさ。なんでなんだろーって思ってたんだけど。」


なな「今ななの周りには誰もいないって言うのが結果なんだと思う。ななが気づかない間に悪いことしちゃってたんだろうね。きっと。」

鳴海「…その、友達と揉めるようなことしたの?」

なな「ううん。何にもしてない。でもきっとななが何かしちゃったんだよ。気に障ること言ったのかもしれないし、なな、仕事でも成績良かったから目障りだったのかもしれない。」

鳴海「それはただの八つ当たりだよ。」

なな「でもね、だから、なな、もしかしたらなーくんにもそういう気づかない間に傷つけちゃうこともあるかもしれないって時々悩んでたんだ。」

鳴海「そんなこと、」

なな「不快になるようなこと、してない?大丈夫?」

鳴海「してないよ。ななにはいつも元気もらってるし癒されてるよ。」

なな「…はああ。よかった。」

鳴海「たくさん悩んでたんだな。」

なな「はじめて人に話せたよ。なーくんありがと」

鳴海「俺の方こそ。話してくれてありがとう。」

なな「なな、なーくんといるのが1番安心する。」

鳴海「俺もだよ。」

なな「すきだよ、なーくん。」

鳴海「俺も。…俺やっぱりもっと一緒にいたい。」

なな「ななもだよ。」

鳴海「やっぱさ、俺の会社に就職したら?」

なな「なーくんの会社大企業なんだもん。なな、大学もいいとこ出てるわけじゃ無いしさ。」

鳴海「出身校は関係ないよ。なな、ちょっとドジだけどテキパキしてるし。顔覚えるの得意だろ?受付向きだと思うけどなー。」

なな「うーん…なな、なーくんのお嫁さんに転職しようかな。」

鳴海「…なにそれ逆プロポーズ?」

なな「なんて、冗談。」

鳴海「俺今その気になっちゃった。」

なな「え?ふふ。」

鳴海「はは。プロポーズは俺からさせてよ。」

なな「じゃあ、待ってるね。」

鳴海「は!司令官殿!」

なな「ふふ。」

鳴海「あ、今日得意先にチョコレート貰ったんだ。ななにあげようと思って。」

なな「チョコレート?」

鳴海「車に乗せたままだった。待ってて、取ってくる。」

なな「うん!待ってる!」


ソファーから立ち上がり部屋を出る鳴海。


なな「顔も年収も高得点。」

なな「友達の質も加点。」

なな「受け応えもイメージ通り。」

なな「Sランク。なーくんなな試験合格です。」

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「彼女の秘密」 有理 @lily000

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