第30話 エピローグ やっぱり隣に行かなきゃ駄目か。

 俺とカームはベッドから起きると。

 さすがに一緒に風呂はまだ無理だけど。

 順番に汗を流し(何もしてないぞ?)、朝食をゆっくりととることにした。


 おや?

 セバスレイさんが朝食の配膳を手伝ってくれてる。

 キッチンからはいい香りが漂ってくるから、デイジナが作ってくれているんだろうね。


「おはようございます。旦那様」

「あぁ、あれ? セバスレイさん、こっちにいたんだ?」

「はい。わたくしはお嬢様の執事でございます。デイジナと共に旦那様とお嬢様にお仕えさせていただくことになりました。本日より、よろしくお願いいたします。わたくしのことは、セバスレイとお呼びくださいませ」

「そっか。よろしくね、セバスレイ」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。旦那様」


 なるほどね、二人ともカーミリア専属だったってことなんだ。

 それを『ニート』騒ぎでデイジナが勘違いしてこっちに出てきたってことかぁ。


「ぷっ……」


 はいはい。

 カーミリアが風呂から出てくるから、手伝ってあげてね。

 あぁ、やっぱり俺の考え読んでるわけだ。


「おはようございまス。旦那様」


 デイジナは俺に会釈をすると、カーミリアがいる風呂場に行ってくれた。


 ほぉおおおっ。

 カーミリア、これまた珍しい服装してるもんだな。

 いつも着てるドレスと違って、色は漆黒。

 首元がスタンドカラーのような感じで、袖が長い。

 スカートもフレアタイプじゃなく、膝位の丈で。

 下にスパッツのようなパンツをはいてる。

 とても動きやすそうな感じがする服装だね。


「うん。似合ってる……、あ」

「ぷっ……」


 なんつーか、デイジナ。

 遠慮なくなったよなぁ。


「いいじゃんか。別に。俺の奥さん褒めたってさ……」

「あなた。そのね……。ありがとう……」


 お互いに照れちゃって、まるで中学生のカップルじゃないか。


 俺はいつものここに来たときの恰好。

 デイジナもいつも通り。

 これが一番動きやすいんだよな。

 別に招待された訳じゃないから、正装する必要もない。

 売られた喧嘩を買いに行くだけ。

 俺としては初めてだけど、別に怖いとは思わなかったね。

 最初に出会ったキングリザードに比べたらさ。


 ▼▼


 食事が終わり、しっかりと戸締りも済んだ。

 この家は俺が買ったんだ。

 絶対に戻ってくる、つもりだ。

 デイジナの美味い料理、食後のコーヒー、おまけに晩酌までできるんだぞ?

 こんなに快適な家はない。

 せっかくのスローライフを俺は捨てるつもりなんて更々ないんだ。


 こんなに綺麗な嫁さん。

 こんなにできた家令さんに。

 執事さんまでいるんだぞ?

 可愛い姪っ子に甥っ子。

 あっちでの生活が夢なんじゃないかって思うくらいに。

 ある意味幸せだったんだ。


「いよっし。んじゃま、さっさと片付けっちゃいましょか」


 セバスレイが御者を務める馬車に乗り込む。


「カーミリア、いや。カームが呼びやすいかな?」

「……はい」


 いやーその、大人びた表情で頬を染められると、なんかこっちまで恥ずかしくなっちまうよ。

 恥ずかしいついでに、手を取って先にカームを乗せてあげる。

 次に俺が乗り込み、続いてデイジナが馬車に乗ると。


「まずはギルドに頼むよ。一応、筋を通してくる」

「はイ。セバス、旦那様の言うとおりニ」

「はい。畏まりました」


 ここから馬車で行っても、ギルドにはすぐに着いてしまう。

 ただ、この馬車は有効だ。

 なにせ、アルドバッハ家の紋章が見える場所に大きく記されているんだ。

 カームも隠す必要がないんだろうな。

 辺境伯の馬車だとバレバレな状態。


「そういやさ、カーム」

「どうしたの?」

「件の国には俺と同じ流浪の民はいないのかな?」

「えぇ。感じ取れないわね」

「そっか、なら遠慮はいらないってことだ。さすがに同郷の人間がいたら遠慮してしまうところもあるからね」

「あなた。もし、流浪の民がいたなら、もうこの国はなかったと思うわ。国まで勢いに乗る程の存在。それがあなたのような、流浪の民なの。この国がまだあり続けられたのもね、亡くなったその人がいてくれたからなの」

「そっか。頑張ったんだな。一段落したら墓参りくらいはさせてもらわないとね」


 お疲れ様、としかいいようがない。

 かといって俺に任せておけ、なんて言えないからなぁ。


 馬車が停まった。

 ギルドに着いたんだな。


「カーム、デイジナ。俺だけで行ってくるわ」


 あまり大事にしたくないんだ。

 この姿のカームが出ていったら余計混乱させちゃうだろうからね。


「はい、あなた」

「いってらっしゃいまセ」


 俺側のドアが開く。


「いってらっしゃいませ。旦那様」

「あぁ、すぐに済むよ」


 俺はギルドに入っていく。

 あー。

 辺境伯の印のある馬車から降りてきたんだ。

 注目浴びてるわな。

 そりゃ仕方ない。

 そろそろ自覚しなきゃ駄目なんだろう。

 俺も一応、有名人だってことをね。


 背を伸ばし、堂々と入っていく。

 俺はここの筆頭なんだ。

 迷うことなくシルヴェッティさんのところへ。


「ソウジロウ様。お待ちしていました」

「おはようございます。もしかして、貼りだされてないことに対してクレームでも来たのかな?」

「……はい。お察しの通りです」


 なる。

 そこまで圧力をかけられるってことか。


「いいよ。俺が会うから。その依頼主。グライドとかって神父さんは、今、どこに?」

「はい。この先にある、一番大きな建物。教会の大聖堂に」

「そっか。うん。これさ、預けとくよ」


 俺はカードをシルヴェッティさんに渡した。


「あの……。どういう意味でしょうか?」

「悪いけどさ、現金だけ出せるカードに変更してくれないかな? あるんでしょ?」

「はい。ございますが」

「俺ね、もしかしたらこの国にいられなくなるかもしれない。そうなったときはさ、ギルドとは関係ないってことにしてくれないかな?」

「それってもしや」

「あーうん。多分、喧嘩になるかな」

「そうですか。ではお預かりします。こちら、お金だけ引き出せるカードになります。……ところで、クレーリアちゃんとジェラル君は、今?」

「あぁ。この国で一番安全な所いにるよ。俺のとっても『フランクな』友人が預かってくれてる。大丈夫だよ。クレーリアちゃんの彼氏も一緒だからさ。ジェラル君は落ち着かないだろうけどね」


 一瞬、シルヴェッティさんは驚愕の表情をしたね。

 そりゃそうだ、本名を友人として言ってるようなものだから。

 この国の大公閣下のね。

 でも表情が柔らかくなった。


「そう、ですか。惜しかったなー。ソウジロウ様を旦那様にできたら、よかったんですけどね。私が一番最初に唾つけたのにぃ」


 そう言って笑ってくれる。

 事情を飲み込んでくれたんだろうね。

 最悪、俺が隣国に喧嘩を吹っ掛けることも。


「ま、戻って来れたらまた仲良くしてくれると助かるよ」

「はい。アルドバッハのお嬢様にもよろしくお伝えくださいね」

「ありゃ、バレてたのか」

「あの馬車の印でわかっちゃいますよ。でも、駄目ですよ? あんなに小さい女の子に手を出したら?」

「あははは。わかったよ。じゃ、またね」

「はい。いってらっしゃいませ」


 俺は現金を引き出せるカードだけを受け取って踵を返した。

 後ろ手でひらひらと挨拶。

 よし、これで一応、何かあっても俺とギルドは関係ないってことになったな。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「うん。あの大聖堂だってさ」

「かしこまりました。正面にお付いたしますか?」

「あぁ、頼むよ」


 俺は馬車に乗る。


「聞いてたでしょ? 大聖堂に乗り込むよ」

「はい、あなた」

「はイ、旦那様」


 さーて、何が出るか。

 クレーリアちゃんを妾にしようってロリコン神父。

 待ってろよ?

 大事な姪っ子に手を出そうってんだ。

 おじさんが、タダで返すわけがないっしょ。


 俺たちは大聖堂に乗り込んだ。

 けどね、その後俺は、ギルドに戻ることはなかったんだ。

 カーミリアとデイジナに聞いた通り、隣国の闇は深かった。

 大聖堂にいたのは小物。

 結局俺たちは隣国へ行かないと事態は解決しちゃくれないということになっちゃったんだよなぁ。

 忙しい新婚旅行みたいなもんだわ。

 ごめんな、カーム。

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三十路を越えて魔法使いになり、まもなく賢者になりそうな俺の異世界スローライフ。~もらった加護は不死。投げやりな舌打ち女神様が外すのあきらめた不幸パラメータって酷すぎる~ はらくろ @kuro_mob

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