少し昔…昭和の京都が舞台。ひとりの少女が、不思議や印象的な出来事に遭遇しながら成長していく物語です。優しく温かみがあり…でも哀しさ、ほんの少しゾクリとする怖さも。京都で暮らしたことがないのに、なぜか懐かしさを感じる短編集です。
子供の目線で語られるお話が、幻想的でありながらときに鋭く、美しいです。作品の雰囲気と幼い京言葉が相俟って胸に迫るものがあります。様々な感情をもたらすこの語り口は、かつての文学にあった雰囲気がするんです。気になるお話を読み直しましたが、後半へ行けば行くほど、それまでの積み重ねもあって色々な感情がわいてきます。
昭和の京都西陣を舞台にし、少女の目を通した今は薄れゆく昔の風情が描写されます。耳障りのいい、京ことば。子供のほほえましい日常。ですが……ちらりとのぞく、やるせない現実。おこもさん、女狐、いつもニコニコしている何もできない同級生、そして、でもどりさん。少女が不思議に思う存在は、大人になるとその正体がわかることでしょう。でも子供のうちだけは、ぬくとい、暖かい繭にくるまり夢の中を遊んでいてほしい。そんな作者さんの思いがつたわるようでした。
文章が素朴に美しく、最後に軽い目まいを覚えます。