その場所にあるのは、あまりに辛く息苦しい世界。
美しい文字がどうにもならない冷たさを綴る中で、それでも彼らの息遣いが聞こえてくるような、だからこそ拳を握るしかないような序盤。
苦しくて仕方なくて、けれども絶望し閉ざされてしまうには、愛しさも優しさも確かにあって――
ままならない世界で、それでも生きるために選び進む彼らは、失うだけではない。
過酷さもままならなさもはっきりと描かれている序盤ですが、タイトルが、そして思う人たちが、道を閉ざすには早いと教えてくれるでしょう。
ずっと苦しいだけではないのは、彼らが選んだあの日から進めばきっと伝わる。
過酷さも問題もあるけれども、確かにそこにある穏やかな花のように。
美しく愛しい気持ちを、きっとくれる。そんな物語です。
とてもシンプルなタイトルですが、読み進めると物語序盤でそのタイトルの意味が輝いて感じられました。
庭師の少年が屋敷で冷遇されている女性の心に寄り添い、そして彼女が「妻」になるのだとわかるからです。
序盤でわかりますが、どうしても報われない恋のはずが、どうやって? とも思いました。
やはりその展開は一筋縄ではいかず、手に入れたものもあれば失うものもあり、非常に苦しい時期もあります。
それでも二人が心を通わせ、共にいられる時間はささやかな幸せに溢れています。
花の蕾が綻んでいくように、傷ついた心が開いていく――。
季節の花々が彩を添え、静かに語られる心情が心に染み入る上質な物語です。
初めに書くと、この物語。本当に冒頭が辛いことで溢れていて。
読みながら、苦しくなってしまいます。
格差がある社会。
貴族と平民。
望まれない子。
渇望する愛情。
歪んだ支配。
純愛をお嬢様に捧げる少年。
文字通り、命そのものを捧げる覚悟で。
少年は行動を起こす。
ここにはチートもファンタジーもなくて。
残酷で冷酷な現実が嘲笑うけれど。
絶望しながら、諦めながら、
それでも。
生きる希望を教えてくれたお嬢様のために
少年は無我夢中で、行動を起こす。
物語はまだ途中。
希望という名の果実。蜜が滴らせて、互いの傷を癒やす
そう言うには、お互いが傷つき過ぎているけれど。
二人が幸せになって欲しいと説に願ってしまう。
せめて
「少年は、見知らぬ屋敷で目を覚ます」
まで読んで欲しい。
読みながら、胸が引き裂かれそうになっても。
追いかけて欲しい。
このシーンに到達した時、安堵したと同時に
この二人がもっと幸せになって欲しいと
思ってしまうはずだから。