あとがき

琵琶法師の四方山話

 どういうわけか、この地に迷い込んだ暁という書き手は、此処で見聞きした物事を不可思議に感じていながらも、受け入れようとしているらしい。

 苦し紛れの自身の解釈を題材に、こうして物語として昇華したのは、慣れの為せる技なのか、受け入れるための足掻きであるのか。


 とはいえ暁自身にとってこの物語は、此処が〈常世〉である、つまり〈死後の世界〉であるとの設定の下に綴られた幻想小説だったのだろう。でなければ、あの者は自分が死んでいると考えていることになる。


 暁が『異都奈良』と呼ぶこの地が一体どういうものか。

 何事にも絶対的な正解などあるはずもない。

 が、一つ有り得そうな解釈を置いておく。


 此処は〈現世うつしよ〉と〈常世とこよ〉の狭間あわい


 だからこそ、暁はこの地をどこかであると感じたのではないだろうか。

 何かに導かれるままに記したこの物語は、この世界の構造と原理の一部を暗示するものであった。

 暁本人がそのことに気づいているかは別として。


 複雑怪奇に入り組むこの世界を眺めていると、巻き起こる物語の一つ一つが〈歯車〉に見えるし、それらが互いに干渉しあって動作する〈時計〉のようだと感じている。

 『異都奈良』もまた、その歯車の一つに過ぎないのだ。


 この世界は〈時計〉のような姿をしている。

 その針が動く時、世界も動いてみせるのだ。

 では、そのはじまりは……。

 一体、誰がそのネジを巻くのか。何が歯車を組み立てたのか。


 とはいえ、私が認識していることすらも、やはりこの世界のごく一部だろう。 




 さて、『暁の物語』はここで一段落。


 また暫くは、暁という創作家さっかとしてではなく、ただのリュカとして、まだ見ぬ『異都奈良』を歩くことになるだろう。


 それもまた、このやつがれが弾き語る〈おはなし〉の一つとなり得るのだ。



                 ―― 琵琶メタ法師

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異都奈良の琥珀食堂 蒼翠琥珀 @aomidori589

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