【簡単なあらすじ】
ジャンル:異世界ファンタジー
精霊の言葉を聞き、平和を守る国で、それはある変化をもたらした。本人も知らずに。ゆっくりと変わり始める、内情。それに気づかぬ人々。主人公は、精霊のいいなりになっている国や民に疑問を抱き始める。そしてかつての幼馴染みのヘイグとピアはそれぞれ、異変を感じ取っていた。果たしてこの国はどうなってしまうのだろうか? 次々と消されていく魔導士たちとその目的とは?
【物語の始まりは】
騎士団長の息子、ヘイグがある石を拾った経緯から始まっていく。幼馴染みと秘密基地へ向かった帰り、彼はある不思議な意思を拾う。だがその石は、父への届け物をしに城へ行った際、宰相にぶつかり失くしてしまう。彼はその石に特別な思い入れがなかったのか、その後忘れてしまうが石を拾った宰相に変化が訪れる。普段ならば理性のある宰相が、女王に対しとんでもないことをしてしまうのであった。
【舞台や世界観、方向性】
インテグレーターとは? ……統合・集約するという意味。
精霊国ラザフォード……精霊が、平和のための言葉を紡ぐ国(あらすじより)
女王は世襲制ではない。数百年もの間、先代が亡くなると時期女王として、貴族の十八歳の令嬢の中から精霊の声を聞く事の出来た者が選出される。
女王がグリエルマに変わってからは、次々と新しい政策が出され、国に変化が起きている。
【主人公と登場人物について】
〈幼馴染みたち〉
ヘイグ……のちに騎士団員長となる。(騎士団長の息子)
ピア……のちに魔導士となる。ヘイグたちの幼馴染み。
グリエルマ……のちに新女王となる。女王になりたくないと思っていた少女であるが、五年後女王としての評判は良いようである。
〈主人公〉
カート・サージアント……五話から登場。父親が不明であり、酒場で育つ。
【物語について】
ヘイグが拾った石に何か特別な力があるのかは現時点では分らないが、宰相の行動は彼らのその先の運命に、間接的ではあるが関わっている。
彼の起こした行動が発端となり、彼女は引きこもってしまう。信頼関係にあった侍女が一年で辞めてしまうなど謎が多く、この時の女王は最終的に盲目による転落死とはなっているが、不可解な点が多いまま。いずれ謎の部分については明かされるのかも知れない。
時期女王選定の日、ヘイグは騎士団員として護衛を行っていた。普段なら強固な防御の魔法陣がしかれているはずの場所であるのに、突如魔物の襲撃に遭ってしまう。魔物たちが狙っているのは、明かに女王候補の娘たちであった。混乱の最中、加勢に来てくれたのが幼馴染みの魔導士。女王候補の一人に子供の頃一緒に秘密基地へ行った、主人公の親戚であり幼馴染みの少女もいたが、攻撃は免れたものの壁際で蹲っていたのである。何とか彼女を助けようとする二人は、魔物の様子が何かおかしいことに気づく。魔物を退けた後の惨状は悲惨であり、女性候補の中で生き残ったのは幼馴染みの少女だけであった。こうして、選ばれることなく女王となった新女王の時代は幕を開ける。
それから五年。酒場で暮らしていた少年は、父のように面倒を見てくれていた主人に家を出るように促される。この酒場で働いていた母が亡くなり、自分も兵士として働くことになれば店の手伝いができなくなるためである。しかし彼は14歳。兵士となれるのは15歳からのようで、それまでの猶予を貰うことにしたのだが……。
【良い点(箇条書き)】
・この物語では、貴族と庶民の差がはっきりしており、待遇の理由も理解できる部分が多い。
・主人公と酒場の主人がすれ違う場面でのリアリティ。
人の顔いろを伺いながら生きている彼には、それを察することは難しいと思われる。これはあくまでも私見でしかないが、母のしつけのせいだけではなく、肩身の狭い想いをしている彼には、労働なくして甘えることは性格上難しいと思われる。そんな理由からも、彼が酒場の主人に甘えられないというのは、とても理解できる。そんな理由により、すれ違ったことに対してリアリティを持たせていると感じた。
・この物語には、”良い人”が多い。善人という意味であるが。しかし、それだけでなく、主人公に対して嫌がらせをする人もいる。貴族が人として落ちたという部分もしっかりと描かれている為、兵士の気持ちにも共感が産まれる。
・伏線が回収される部分が見事である。(これはその部分では、明確には記載されてはいないが)
【備考(補足)】第三章三話まで拝読
【見どころ】
一章は、プロローグ編となるようである。この国がどんな国であるのか、女王の代替わりの経緯、そして主人公が庶民であるにも関わらず、騎士として選ばれた経緯などが語られていく。冒頭での幼馴染み三人は、後にそれぞれ国に何らかの形で関わっており、主人公との関りもあるようだ。
主人公は、生前母の働いていた酒場で世話になっていたが、14歳のある日いつまでもここへは居られないことを悟る。(直接言われるわけではあるが)しかし、酒場の主人は追い出したいわけではなかった。その主人の想いは彼に伝わることはないまま、彼は騎士として巣立つことになった。騎士になった経緯については、青天の霹靂といってもいいのではないだろうか? 恐らく庶民にとってこの事例は異例であり、本来なら光栄なのであろうが15になったら出て行かなくてはならない彼にとっては、有難くないものであった。その後、家のない彼は宿直室に泊まる許可を団長より貰うこととなる。
住むところのなくなった彼にとって、転機が訪れたのは身分の高い貴族からの嫌がらせに気づいている団長の計らい、あるお使いによるものであった。そこで彼は魔物に襲われている少女にをみつけるのだ。彼女を救ったことがきっかけで、主人公はその後と一緒に暮らすことになる。
主人公は騎士になってすぐに色んな経験をしていく。貴族には庶民として嫌がらせを受けるが、周りの大人にはその立ち居振る舞いから好印象を与えていくのだ。つまり、彼は周りに何にかしらの影響を与えていく人物なのではないだろうか? と推測してしまう。彼自身の成長も見られるが、それによって何かが変わり始めるのではないだろうか?
全てが繋がり始め、なるほどと感じ始めるのは第三章に入ってから。人によって感じ方は違うだろうが、それは核心に変わるかもしれない。さて、彼らはどう動いて行くのだろうか? そして物語の結末とは?
あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。
精霊の言葉を聞き、そのとおりに動くことで平和を保っている国。
三人の幼馴染み、その日常に起こった変化からはじまる物語は、しばしの時が流れたのち、不遇の少年カートが騎士団に入り、初の仕事を受けることで動き出します。
まっすぐなカートの目に映る、人形のような言動をする人びとに対する疑問。
精霊の言葉に従うという国の在りかたに隠された真実とは……?
主人公の成長は勿論、そこに関わった周りの人びとの変化も必見です。
緻密に練られた世界観と、随所に散りばめられた伏線。
そしてそのなかで、まさに生きている登場人物たち。
バランスのよい文章が、じんわりと沁みるような読後感をもたらしてくれます。
おすすめです。
王道ファンタジーながら独創性溢れる発想が随所に光る傑作です。
魔導士ピアの人形の扱いがとにかくユニークかつ時にユーモラスで、「私もこんな人形遣いになりたい!」と思ってしまいました。
精霊の言葉で全てが決まる世界の中で、自ら考える事をしなくなった人々の姿は、まるで我々の写し鏡のようでドキリとさせられます。
その中で、疑問を抱き次第に成長していく主人公カートに共感しつつ、どんどん引き込まれていきました。
運命に翻弄されつつ真摯に生きる登場人物一人一人がみな愛おしく時には笑える所もあってとても魅力的。
ストーリーにも全く無駄や飽きる部分が無く、一気に読めるエンタメのお手本にしたいような作品です。
新入り騎士の少年カートと人形遣いの魔導士ピアを中心として描かれる、謎と企みと、(主人公以外の)恋の三角関係がもつれあう冒険ファンタジーです。
丁寧な伏線と、人物それぞれの人間関係が、物語の味わいを深めていました。
冒頭で畳みかけるように事件が起き、年代が飛んで主人公が登場、という構成になっていますが、この事件それぞれが後の謎を解き明かすための鍵ともなってきます。
主人公カートが登場するのは第一章の第五話ですが、彼がとても良い子で可愛いのです……!
品行方正で礼儀正しく、目上の者に敬意を示し、理不尽な仕打ちにもじっと耐え、――と、正直この辺りで「我慢しちゃうの!?」という気持ちが湧いてくるのですが、カートのそういう姿勢が変化してゆくのも、この物語で描かれてゆく少年の『成長』だったりするわけです。
全体を通して、登場人物たちの言動や思想には理由があり、意味があり、終盤の謎解きターンで真相がぐいぐいと明らかになってゆくのが本当に面白い。謎と伏線も複雑すぎることはなく、適度な推理が楽しめます。
テーマのはっきりした物語でもありますから、読み進めていく中でふと手を止め、作中で問い掛けられることを考えてみるのもよいでしょう。
王道ながらもじっくり深く楽しめる、少年たちの成長物語。文庫本一冊程度の完結作品です。ぜひご一読ください。
精霊のお告げによって全ての政令が、国法が、
その他のあらゆることが決められる世界。
その世界で、人はどうあるべきなのか。
人が自分の意志を持って生き、愛し、戦うとはどういうことなのか。
現代社会の人間にも通じる重厚なテーマを扱った作品です。
といっても、その問題意識の大きさに対して、
物語は数々の伏線を張りながらも、とてもシンプル。
大きく構えること無く、ストレスレスに読み進められることに、何より感服。
これは、作者の筆力によること大きいでしょう。全てのバランスが良いです。
また、主人公カートの素直さがものがたりの
大きな原動力となっているのも大きなポイント。
彼の純粋さに惹かれて、いつの間にかその行動を応援し、
その一挙一動にワクワクドキドキし……
そのうちに作品世界に、すうっ、とごくごく自然に
入り込んでいる自分に気付くのは、実に楽しい読書体験でした。
そして、読後感の爽やかさ。読了後の胸に満ちるは、希望のひかり。
この感情こそ、読者も、カートたちのように自らの意志で
この物語を選び取って読んだこそ得られる喜びなのかも知れません。
この作品に出逢えた、
いえ、出逢う道を選べたこと、選んだことに心からの祝福と感謝を。