この作品に出会うまで「安達峰一郎」という人物については全く存じ上げておりませんでした。
時は明治政府が成立したばかりの頃、所は山形県の村。
幕藩体制の感覚が色濃く残る農村に生まれた主人公・安達峰一郎を通して当時の農村の様子が描かれます。
作者様の丹念な資料調査に基づいて描かれるその様子は、人々の息遣いや生きる力を強く感じさせてくれますが、やがて成立したばかりの山形県庁から、新道開設に伴うトンネル工事の資金を平等に負担せよというお達しが届きます。
新道の利便性を受益する位置に無い峰一郎たちの村。郡の大人たちは、この重い負担に法に則った抵抗運動を開始し、幼い峰一郎もその運動に深く関わり敵味方問わず多くの大人たちと関わっていくことになります。
幕末~明治期舞台の作品の多くは維新の英雄に焦点を当てたものですが、一庶民の立場からこの時期を描いたこの作品は、舞台こそ山形県ですが多くの農村住民の大きな負担と努力で現在の日本の姿になったということを知らしめてくれる良作です。
多分私の曾祖父あたりもこうした時代を支えてくれたのだろうと思うと、感謝の気持ちが湧いてきます。
骨太な地域史を、是非お読みください。
明治期の東北というと、戊辰戦争の傷跡が生々しく、復興あるいは巻き返しに挑む熱さに満ちたイメージがありますが、その――北国らしからぬ熱さ、熱風の嵐の中を、雄々しく、健やかに、まるで杉の大樹のようにすくすくと育ち、そして世界へとその梢を伸ばしていく男、安達峰一郎。
だが彼の生地、山形は、県令・三島通庸の支配下にあり、危機に瀕していた。その危機に立ち向かう大人たちの背中を見て、峰一郎は何を思い、どう行動していくのか――。
大河でありながら、それだけでなく、友情あり、喧嘩あり、恋愛ありと、その熱い日々を共に過ごすことができる青春譜です。
また、山形という、豊穣かつ人情味あふれる土地の素晴らしさも伝わってくる、逸品です。