何かを愛するにも、自分自身から逃れられない滑稽さと悲しさ

pixivでイラストを見つけ、本編を読んだ後でカクヨムの方に来ました。
 吸血鬼が人間を支配するサイバーパンクなディストピアで、人間である主人公に友好的に接する魅力的な吸血鬼美少女の正体は、環境テロリスト! という百合。
 本作の吸血鬼はアンデッドなのかどうなのかよく分からないのですが、太陽には弱いなどおおよそ吸血鬼の特徴を持ち、人間の血液を貨幣とする社会を形成している。手首の皮膚に開くモニター「浮き痣」やそこから見られる配信サービス「毛細血観」、架空物質であり貨幣としての要である「血中算素」に「血中計算」などなどの用語は、すべて説明されないまでも、奥深い世界観が形成されていることがうかがえます。こうした背景はとても興味深いので、長編化でさらに深掘りされていくなら、是非読みたいですね。
 自分の存在に葛藤する吸血鬼、というテーマは定番のようですが、そこに人間という資源の環境問題と絡めることで風刺的な味わいがあり、独特の空気がある作品。タユタが流子に惹かれる意味を考えてしまいますね。
 ラスト、それまでおっかなびっくりタユタの後をついていくばかりだった流子が、最後に少し強気になる展開も非常にぐっと来ました。