Zoomだと異世界人なのかコスプレなのか見分けがつかない
にぽっくめいきんぐ
Zoomだと異世界人なのかコスプレなのか見分けがつかない
「この中に1人だけ混じった『異世界人』を当てたら、転生先で自在にモテまくるチート能力をあげるよっ!」
と、ちびっこい女神様に言われたので、urlリンクをつついてZoom会議に入ったんだけど……。
これ、ゼンブ異世界人じゃないの?
タテ2xヨコ2に4分割されたZoomの画面には、
斧を持ったドワーフの男。
弓を背負ったエルフの女。
ウロコの堅そうなドラゴン。そして、
白いヒラヒラの服を着た、異世界転生でよく見かける女神様。
と、4人が映っていた。
Zoom会議なのに、なんでみんな『引き』で映ってるんだよ……。アップじゃないのかよ……。
ドワーフ男の仮想背景は屋外だ。
「ワシはエルロール大草原から繋いでいる」
と、断続的に何度も呟いている。
こいつか? 異世界人。そんな草原の名前、聞いた事無いぞ?
パソコンの別ウィンドウから、一応ネット検索してみると、「エルロールトイレットペーパー」と書かれたサイトがヒットした。
その他含めて4件しかヒットしない。2021年1月9日の0:26時点の検索結果だ。
エルフ美女は分かりやすく耳が長い。
「つけ耳ですか? ソレ」
と俺が聞いたら、彼女は口をパクパクさせているけど、何を言っているかは聞き取れない。
「あの、マイクがミュートになってますよ?」
そしたら、ちびっこ女神様が服をヒラヒラさせて、
「声を運ぶ風の精霊は、キミの世界までは羽ばたけないんだ」
とか、ファンタジーなことを言い出した。
「ミュートなの? 風の精霊なの? どっちなの? Zoom越しじゃ、全然特定できないんだけど」
そしたら女神様が、「へへっ」と笑った。
いや、可愛いことは可愛いんだけど。
そっか。この4人の中に混じった異世界人は1人だけなんだよな。
女神様以外の人が異世界人なのだとしたら、このヒラヒラ服の少女は、ただのコスプレイヤーってことになる。
とすると、そもそも「モテモテになるスキル」とやらをゲットできなくなるじゃないか! 彼女が単なる人間だったなら!
「女神様。異世界人はアナタ以外にはあり得ないです!」
と、ノートパソコン上部のカメラに向かってビシッと指をさした。そしたら。
ウワハハハハハハハハハハ!
大音声をあげたのは、ウロコの堅そうなドラゴンだった。
随分とリアルな着ぐるみ。ドン〇で買ってきたモノではないだろう。
「愚かな小僧よ。これを見るがよい」
ブワワワワワワアワ!!
スピーカーがハウリングするほど凄まじい風音を挙げて、ドラゴンは炎の息吹を吐いた。
「コスプレでドラゴンブレスが吐けると思うか? 小僧」
ドラゴンはいかにも「数百年生きてます」的な言い回しをしているけど、俺はとっくに気づいているぞ。
そのドラゴンブレス、使いまわしだろ。
何度も何度も、同じ向きに、同じ風量でそのブレスは吐かれていた。ドラゴンが映る画面の隅っこに、タワー状に積みあがっていた積ん読本が、何度もなぎ倒されては、一瞬のうちに元のタワー積みに戻っていた。
「ふん、ほんとにドラゴンだっていうなら、リピート再生なんか使うなよ。ズルすんな」
俺は鼻で笑った。
「やっぱり、異世界人はあなた。女神様以外にあり得ない」
俺は断言した。。
「本当に……その選択でいいのね? 異世界からの転生者さん?」
画面の向こうから、こちらを見上げるようなアングルで言うちびっこ女神様のまつ毛は長かった。可愛いというより、「かわいらしい」という表現が合っていると思う。うちの長男と、どっちがかわいいだろうか。俺が死んだ後も、嫁たちと幸せに暮らしていけるだろうか。
両手を前で組み、目をつぶった女神様は、3回深呼吸してから言った。
「ブブー! 私は異世界人じゃありませーん!」
「うっそ! そんなわけないはず!」
「ほんとですー。私は世界と異世界とをつなぐ挟間の空間に住む女神だもん。異世界人じゃないよー」
「挟間の世界は異世界じゃないの?! 異世界の定義はどうなってるの?!」
「定義は人ぞれぞれ……かな?」
首をかしげて笑う女神様は、とってもかわいらしい。でも定義がはっきりしないと答えもわからんじゃないか。
そんな女神様から結局与えられたチートスキル。それは、
「ファンタジー世界の住人に自在に変身できる能力」
というものだった。
いやいや、あのね。
異世界人なのか? 単なるコスプレなのか?
Zoom越しじゃなくても、見分け付かないのでは?
<了>
Zoomだと異世界人なのかコスプレなのか見分けがつかない にぽっくめいきんぐ @nipockmaking
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