執着と妬心による自家中毒みたいな恋

「定期的に口づけを交わす」という契約の元につながる女性ふたりの、日々の生活と恋の物語。
 百合です。大学生の女子ふたりの、高校時代から続く関係を描いた恋愛もののお話。主な舞台は演劇部(演劇サークル)で、そこで脚本等や大道具などを請け負う七海五十鈴という女性が、本作の視点保持者であり主人公です。そしてその五十鈴が見つめる対象、九十九帆那はある種の花形、演技が上手くまた男性役の似合ういわゆる『王子様』的存在。この帆那さんがまた誰にも優しく誰の目にも魅力的なようで、なればこそ主人公の中に否応なく生じる煩悶や懊悩を、重くウェットな表現でひたすらに書き綴っていく作品でした。
 何はともあれすぐに目を引かれる、というか、とにかく特徴的なのがその文体。限界ギリギリまで切り詰められたかのような、極端な短文の積み重ね。詩的で、こってりとした情緒に満ち、ときにどこか大仰ですらある語り口の、その「主人公の脳内をそのまま描き出した」かのような独特の手触り。事実や理路すらも置き去りにして、剥き出しのまま叩きつけられる情動の、そのあまりの酩酊感にクラクラします。
 ある種の自己陶酔が、そのまま自家中毒となって身を焼くような感触。妬心と執着、あるいはもっと単純な見栄やら意地やら、こうして言葉にしようとするとどれも微妙にニュアンスが違うのですけれど、でも心の中に自ずと湧き出てくる複雑な感情。恋慕や憧憬のすぐ隣、同質でありながらも決して快くはない心の働き。そういうものに振り回されながらも、しかしどうあれ前に進んでゆく、強い恋のあり方を描いた作品でした。