白い部屋の話

七瀬モカᕱ⑅ᕱ

誰も知らない。

 これは私がに三歳の頃に体験した話。

 この頃の私は私は年に数回、病院に入院していて毎日外泊できる日を楽しみに病室で過ごしていた。


「もうすぐ消灯時間だから、お布団に入ろうね〜。」

 病棟の消灯時間は午後九時、他の子達は『はぁいおやすみ〜せんせ!』なんて言って布団に潜り込んでいった。もちろん、素直に寝る子なんてほとんど居なくて....電気が消えてもヒソヒソ話す声が聞こえていた。


 そして毎回、見回りに来た看護師さんにバレて小さい声で怒られる。というのがワンセットのように毎晩あった。


 まだ入院生活に慣れていなかった私は、日付が変わっても寝られない時が何度かあった。

 一度だけ、部屋を移動して寝てみようか。と言われ、いつも生活している部屋とは別の部屋に移動したことがあった。そこは夜中でも昼間のように明るい部屋だった。


 それでも眠れなかった私は、しばらくの間看護師さんと他愛のない会話をした。


 普段から私のことを気にかけてくれるおじいちゃん先生の話、自分の家族の話。

 看護師さんの家族の話や、プリキュアの話なんかもしたと思う。

 部屋での時間は本当に楽しかった。


「せんせ〜......ねむくなってきた....。」


「そう?おやすみ〜.....」

 もっともっと話したかったけれど、私は睡魔に負けて眠りに落ちていった。


 ✱✱✱


 朝六時、看護師さんの声で目を覚ます。


「ももちゃん、はい起きて。」

 今日は私の嫌いな看護師さんが私達の部屋の担当らしかった。


「せんせー?」


「ん、なに?」


「あのしろいおへやは.....?」


「ん?白い部屋?」

 看護師さんに白い部屋の話をしてみても、不思議そうな顔をして『なに、それ』と聞き返されるだけだった。

 他の看護師さんや友達に『白い部屋』の話をしてみてもみんな『知らない』 と言ったり不思議な顔をして聞き返されたり、『夢でも見たのかな?』なんて聞いてくる人ももいた。


 ✱✱✱


 結局『白い部屋』の謎は解けないままで、大人に近い年齢となった今では少し怖いとも思うようになってしまった。

 あの時、眠りに落ちるまで看護師さんがずっと頭を撫でてくれていた感覚もしっかり覚えている。


 なのに、誰も知らない。






 白い部屋は、消えてしまったんだろうか。





 誰も知らない、秘密の部屋。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白い部屋の話 七瀬モカᕱ⑅ᕱ @CloveR072

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ