第5話:夢で逢えたら

増本綺良は幸阪茉里乃が作り上げた幻だったのか。

周りの生徒に尋ねてみるも、茉里乃以外は誰も綺良の存在を認識していなかった。

他人任せに人生を変えたいと望んでいた茉里乃の夢を神様が叶えたとでも言うのか。

茉里乃は心にぽっかりと穴が空いたような感覚に陥っていた。

もう綺良に逢うことはできないのだろうか。

ふと、茉里乃の脳裏に綺良の言葉が過った。


綺良『百万円あったら、何がしたいですか?』


それは綺良が初めて茉里乃にした質問だった。


茉里乃『きらちゃんに逢いたい』


茉里乃はその言葉に即答した。


茉里乃『夢でもいい。あの漫画の主人公に一万円渡して、きらちゃんに逢いに行く』


綺良『百万円でやりたいことの答えとしてそれは変やで』


茉里乃『いいやん、別に。これは私たちだけの夢の世界なんやから』


すると、綺良が再び茉里乃の目の前に姿を現した。

あの時と同じように照れ隠しでシュノーケルを被ったまま。

二人はまた大きな声で笑い合った。


茉里乃が目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。

どうやらこたつに入りながら眠ってしまったようだ。

机の上には描きかけの漫画が広げられている。

全ては茉里乃が見ていた夢だったのだ。

幸阪茉里乃は高校を卒業し、バイトをしながら漫画家を目指していた。

しかし、コンクールに出す漫画のアイデアが浮かばずに行き詰まっていた。

そんな焦る気持ちが増本綺良という幻を見せたのかもしれない。

夢から覚めた茉里乃の頭には次々と漫画のアイデアが降りてきていた。

茉里乃はペンを手に取り、黙々と漫画を書き上げていった。

主人公の名前は増本綺良。

もう二度と綺良は消えたりはしない。

こうして、茉里乃の漫画の中で生き続けるのだ。

コンクール用に一話完結のストーリーを描き終えると、茉里乃はペンネームの『まりの』の頭にひらがなを二文字付け足した。

漫画の最後のコマで綺良は読者に問いかける。


『百万円あったら、何がしたいですか?』



完。

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夢で逢えたら @smile_cheese

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