第2話 鈍化

 人間が現代で生き残るために必要なのは、金銭への好意と若干の幸運、そして感性の適度な鈍化である。…

 

 冷えた甘酒が体内へ栄養を供給する。寝続けた私の体は、過度の緊張による筋肉の痛みを湛えながら、やっとのことで緩和を得た。鋭敏さは人を殺す、鈍麻は人を生かす。一方で優れていることは、他方では劣っていることに他ならない。

 私はなんとか手に入れた安寧に身を委ねながら、足元を温めるストーブの風と、頭部を冷却する一陣の夜風に変わりなく煙草を燻らせる。睡眠は体力の回復に必要だ、という文言について思考を巡らせながら、逸れた筋肉の繊維を思う。厳密には、感覚の遮断が生きるには必要だ、と言うべきだろう。我々が生きる世界は、刺激にあふれている。それは止まるところを知らず、まるで高さを競う滑稽なビル群のように、日増しに我々の世界を覆っていく。

 静寂は死ぬだろう。必ずや、やがて、死に絶える。

 そして同時に私のような人間もまた、死に絶えるだろう。鈍化された感性を突くための安直で非芸術的な構造を持った世界の中で、オフィーリアの眠る小川は存在し得ない。……

 煙草の酩酊に身を委ねる。安らかな動悸が、夜風の冷却を帯びて、心地よさを運ぶ。遠ざかる音の群れは、深夜に少しずつ鳴りを潜め、世界はあるべき静寂への還っていく。

 暁の運ぶ喧騒を、太陽の齎す光線を、まるで一時の脆弱な月明かりで浄化するように。…

 



 月は溶ける。

 世界からあらゆる賛美を受ける太陽光に、慢心の憎悪を向けられながらも。

 ただ、静かに。

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冷たい静寂 鹽夜亮 @yuu1201

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