パチンコMEGAZ異世界店へようこそ(宇宙人のゲーム2)

四葉八朔

第1話

「らっしゃいませ~、らっしゃいませ~。ありがとうございます。あっ、らっしゃいませ~。

本日はお足元の悪い中、パチンコMEGAZ異世界店へご来店、まことに、あっ、まことにありがとうございま~す。

当店ではお客様に楽しく御遊戯していただくため、ただいま全機種、全台、大々大解放中!

さあさあさあ、どちらのお客様も、日頃鍛えたその腕と、勘と根性、粘りと運で、ジャンジャンバリバリ、あっ、ジャンジャンバリバリとお出しくださいませ~」


 自動ドアを通り抜けて室内に入った途端、そんなマイクパフォーマンスが聞こえてくる。

 日本の成人男性なら好き嫌いはともかくとして、多少なりとも耳にした覚えがある台詞ではないだろうか。


 が、この世界では異質。

 あまりにも異質過ぎて、神々に裁きの雷を落とされそうなほど。


 周りにある建物はロマネスク建築のような石造りやレンガ造りのものがほとんどで、まるで中世ヨーロッパ時代のような雰囲気を匂わせている。

 通行人の服装もチュニックやシンプルなドレス姿といった質素なものが多かったし、木製車輪の荷馬車が表通りを通過していく様子もあった。

 それらと比べると、コンクリート建築に道路に面した部分はガラス張りと全然違った外観。

 明らかに時代設定を間違えたような建物の中に俺は約半年ぶりに吸い込まれていく。

 なぜならここが堕落ダンジョンと呼ばれる場所で、そこのダンジョンマスターがほかならぬこの俺自身だったからだ。


 この世界にはいくつもダンジョンがある。

 ダンジョンとは本来危険なものだが、それと同時に人類にとって非常に有益なものでもあった。

 数多くの冒険者たちがダンジョン内部へと侵入し、そこで還らぬ人となっている状況だ。

 そんな危険な場所をなぜこの世界の人類はそのままに放置しておくのか?

 答えは簡単。

 ダンジョンというのが、貴重な資源を生み出してくれる場所だったからだ。

 金、銀、宝石、魔道具に魔石や食料品までもが手に入る場所。

 この世界のダンジョンへの依存度はことのほか高く、もはや共生関係にあるといっていい。


 それに潰せば増えるだけ。

 最奥にあるダンジョンコアを潰せばそのダンジョン自体は消滅するが、また新たなダンジョンが世界のどこかに現れてしまう。

 それがこの世界の摂理だったからだ。


 かといって、友好関係にあるかといえばそうでもない。 

 基本的にはこの世界の人間に糧を与えるための装置ではあるものの、ダンジョンが生体エネルギーを得るための仕組みでもあった。


 ダンジョンが成長したり、アイテムを生成するためには、LPというものが必要になってくる。

 そのLPというのは生き物の生体エネルギーのことだ。

 ダンジョン内で生き物が死ねば、その生き物のLPがダンジョンに吸収されることにより、LPを一気に獲得出来るのだが、生き物がダンジョン内部に居るだけでも徐々にLPを奪い取っていく仕組み。

 といっても、健康な人間なら大気からマナを吸収することにより常時LPを回復しているので特にこれといった害はなく、ダンジョン慣れしていない者が多少倦怠感のようなものを覚える程度。


 というか、驚くかも知れないがこの世界には農民がごく少数しか存在していない。

 ダンジョンに居る魔物のドロップ品として農作物が得られるからだ。

 しかも食料袋というマジックアイテムが非常に安価で世間に出回っている様子。

 ほかのものは一切入らないが、農作物だけは無限に入れられ、重量も感じなくなる謎の袋だ。

 誰かが意図的にこういう状況を作り出していなければおかしい。

 最初はすごく歪な感じがしたが、それでこの世界が巡っているのだからそういうものだと受け入れるしかなかったが。


 ともあれ、そんな感じにダンジョンと共存する形でこの世界は潤っていた。

 そんな世界にダンジョンマスターとしてこの俺が召喚されたのが今から80年以上前の話。

 基本的にダンジョンマスターに選ばれるのはこの世界の住人なのだが、助っ人外国人のように別の世界から召喚された存在がダンジョンマスターになるケースも稀にあり、今のところ地球人では俺ひとり。

 といっても、俺が地球人の中で特別に優秀だったというわけではない。

 この世界を作ったヨグ・ソウローズという宇宙人の気まぐれに付き合わされているだけというのは、ダンジョンマスターのうちでも一握りしか知らない情報だった。


 ここに来たのが半年ぶりというのは、その間地球でバカンスを取っていたからだ。

 とはいえ、ダンジョンマスターになったことで不老の化け物になっている今の俺でも自力で地球に転移可能なわけじゃない。

 大量のLPを貯めてヨグくんに貢いだ功績により、特別に1年間のバカンスをいただいたというわけだ。

 それなのに何故か半年で呼び戻されている始末。


 ヨグくんという宇宙人はなかなか話のわかるやつで、きちんとLPさえ稼げばその分こちらの要望も叶えてくれる。

 ぶっちゃけ地球にあるものは、この世界を根底からぶっ壊すようなものじゃないかぎりLPと引き換えに交換してくれるし、今回のように地球旅行をプレゼントしてくれたりもする。

 けっして約束を破るような人間、いや宇宙人じゃないはずなんだが……。

 その理由を聞くために俺は現在ヨグくんとコンタクトを取ろうとしているところだった。


 ダンジョン内にあるマイルームまで赴けばヨグくんとも連絡が取れる。

 そのマイルームにはPCやゲーム機器があるし、一通り家電製品や生活用具なども揃っている。

 どうやって地球と繋がっているのか謎のネット環境も。

 そして電力のほうもLPで代替できるので、俺はこの世界でも何一つ不自由のない暮らしを送っていた。

 この世界のことや俺の現状について喋ってもすべてなかったことにされてしまうのでまるで意味がないのだが、一応は地球人と通話することだって可能だ。

 この世界で何十年と経ったあとは、次第に親しい人間が居なくなってしまったので、滅多に通話することもなくなったが。


 最初の頃は死ぬほど苦労したものだ。

 この堕落ダンジョンだって実は元々俺のものではなかったりする。

 ダンジョンマスター同士で戦った結果、手に入れたもの。

 エルセリア王国の王都エルシアードに現れたこの新しいダンジョンが立地的に都合がよく、欲しかったからだ。


 ただし、普通ならそんなことはしない。

 メリットがほとんどないからだ。

 ほかのダンジョンマスターと戦って勝てば、そのダンジョンを手に入れられるのだが、それまでにそのダンジョンが貯めたLPはヨグくんがすべて回収してしまうため、自分の懐には入らない仕様。

 ダンジョン内に居る魔物やアイテムなんかも全部そうだ。

 勝者に与えられるものは敗れたダンジョンマスターを殺すか自分の眷属にするかの権利と、萎んで1から作り直すことになる廃ダンジョンだけ。

 そのくせ、新たなダンジョン分の上納LPもヨグくんに納めなければならないときている。


 相手のことが邪魔だったり、或いは相手のダンジョンマスターを自分の思い通りにするためという理由からダンジョンマスター同士がぶつかることならあるが、不干渉を貫くのが基本。

 そもそもダンジョンの外に出られるのはダンジョンマスターとその眷属のみ。

 魔物たちを外界に移動させることはできず、少数で相手側のダンジョンに乗り込んで戦わなければならないという攻め手側には不利な条件だ。

 負けたほうは殺されるか、相手側の眷属となり支配下に置かれてしまうため、滅多なことではダンジョンマスター同士が争うことはない。


 いずれにせよ俺の場合はまったく違う理由だったが。

 ダンジョンが現れる場所は完全に運任せで、俺の最初のダンジョンである怯懦きょうだダンジョンも人里離れた場所にある。

 この世界ではダンジョンが有益なものとして考えられているため、そのことを知っていればそこまで焦る必要もなかったのだが、その時点で俺はそんな説明を受けていなかった。


 そのため、ダンジョンの外に自らが飛び出していき、ひたすらゴブリン相手に立ち回り、瀕死にしてはダンジョンに連れ帰って殺し、またゴブリンを瀕死にしては殺してという作業を何度も繰り返していた。

 いきなり冒険者がやってこられたら、これでは詰むと思ったからだ。

 いや、絶対にそうならなかったともかぎらない。

 出来たてのダンジョンの場合、立地によってはあえて潰すという選択肢が取られることもある。

 それ以外にも人類に対して明確に敵対行動を取ったダンジョンコアが破壊されることだってある。


 魔物を外界に移動させることは原則禁止されているが、ダンジョンの魔物が外界に出現するケースがまったくないわけじゃない。

 ダンジョンスタンピードと呼ばれる魔物の氾濫だ。

 その原因が何なのかこの世界の住人はまるでわかっていないが、ダンジョンマスターの何人かは知っているはず。

 ヨグくん曰く、たまにイベントがあったほうが面白いからだそうだ。

 それにダンジョンコアをまったく破壊しようとしないこの世界の住人を焚きつけるためにやっているらしい。

 ダンジョンと共生させようとしている一方で、適度にダンジョンを潰せってけしかけているんだから、俺からすれば無理難題を吹っ掛けるなって感じだが。


 そこそこ付き合いが長いので俺にもだいぶわかってきた。

 ヨグくんに取って、これはゲームなんだということが……。

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