第8話
◆
エルセリア南西部に存在する傲慢ダンジョンの地下2階層。
現在そこでひとりの少年がモーザ・ドッグの群れを相手にひとりで戦っている様子があった。
少年の名は
日本から召喚された勇者だ。
そんな勇のギフトは剣聖。そしてこの世界に召喚されたときにはすでに剣術の極意というスキルも持っていた。
これまで戦闘と無縁だった勇が普通に魔物と戦えているのは、その剣術の極意というスキルと勇者特典として神から支給された装備一式のおかげだった。
ガルムヘルム。
ロックチェスト。
カーフレザーグローブ。
フェザーブーツ。
そしてバゼラードという短剣。
神によればそこまで高い等級の装備ではないが、初級ダンジョンなら充分に通用するとの話。
そのときにはケチくさいと思ったが、今にして思えば勇もこれで充分な気がしている。
レベルアップによる恩恵は非常に高く、現在いい知れない全能感を勇が味わっているからだ。
先頭のモーザ・ドッグが後ろ足で地を蹴り、勇へと襲いかかる。
そんな突然の動きにも勇は落ち着いて対処していた。
モーザ・ドッグの噛み付き攻撃をひらりと躱しながら、横薙ぎにバゼラードを振るう勇。
その鋭い刃はモーザ・ドッグの左前脚を切り裂き、あっさりと最初に襲いかかってきた1匹を行動不能にしていた。
おそらく剣術の極意というスキルのおかげだろう。
相手は所詮初級ダンジョンに出現する低級の魔物。初級冒険者でも狩れるレベルでしかない。
だとしても己の剣技は非常に優れたものだという自負に勇は満ち溢れていた。
恐怖心や生物を殺めることへの忌避感もほとんどない。
倒した魔物がその場から消えてなくなってしまうからだろう。
スポーツ――いや、ゲームのようなものだ。
倒した分は経験値としてしっかり己に返ってくるし、そのことがはっきり数字としてわかるだけに勇は徐々に強くなる自分に酔い痴れていた。
4匹中3匹のモーザ・ドッグを倒したところで戦闘が終了。
最後の1匹が逃走したからだ。
そのまま追いかけたところで捕まえられるかは微妙。レベルアップにより脚も速くなっているとはいえ、四つ足の獣に追い付けるかどうか……。
そもそも下手に深追いしないほうが無難だろう。
というか、ドロップ品の回収のほうが先だ。ほかの冒険者に拾われでもしたらたまったもんじゃない。
そう考えた勇は地面の上に散乱していたドロップ品をひとつずつ回収していった。
「ちっ、しけてんな。クズ魔石とライ麦が3袋だけかよ。こうなってくるともっと下層に降りることも考えなきゃいけねえか」
この世界に召喚されて早1週間。
勇はレベル6まで成長していた。
初日ゴブリン3匹を退治したところでレベル2に上がり、その日のうちにさらに6匹のゴブリンを倒し、レベル3になったところでその日は傲慢ダンジョンを後にしている。
2日目はゴブリン12匹を倒し、レベル4に上がった時点で探索を終了。3日目、4日目の2日間でゴブリン24匹を倒してレベル5に成長。
その頃にはゴブリンから得られる経験値が少なくなっていたので、地下2階層に狩り場を移し、そのあとの3日間はモーザ・ドッグをずっと相手にし、やっとレベル6まで上がった感じだ。
神の話だと、これでも勇者である勇はこの世界の冒険者と比べて10倍の経験値を得られるらしい。
勇の計画では、中級冒険者の目安と言われているレベル10まで残り2週間以内にたどり着く予定だった。
「早くしねえと、せっかくのハーレム要員が奴隷落ちしちまうからな」
勇は神に選ばれた勇者だ。
少なくとも神からはそう聞かされている。
が、こういう召喚もののお約束で、勇の召喚に巻き込まれた偽勇者が9名ほど居るらしい。
うち女が5人。才色兼備な女子高生ということなので間違いなく勇のヒロイン候補だろう。
正直男のほうはどうなってもいいが、ヒロイン候補は傷物にしたくない。
3ヶ月間はこの世界の住人から危害を加えられないようだが、ダンジョン内の魔物となると話は別だ。
勇のように圧倒的な力を与えられていない偽勇者たちでは、この世界を生き抜くのが難しいはず。
そんなことを考えていた勇だったが、ヒロイン候補たちの前で俺つえええええするためにも己のレベルアップを優先していた。
現在エルセリア王国内には勇以外に3人の日本人女性が居るとも聞いている。
残るはマガルムークに男2名に女1名、ドゥワイゼ帝国にも男2名と女1名が居るという話。
そういうわけで勇はレベル10になった時点でエルセリア王国内に居るヒロイン候補(ハーレム要員)を探しに行く予定だった。
ただし、見つけた時点で奴隷落ちしていれば、一時的に見捨てることも選択肢の中には入れているが。
身体的な危害を加えられないとはいえ、借金などで自由を奪われている可能性がある。
神から支度金として渡されたのは金貨20枚。
これは贅沢さえしなければ3ヶ月程度は何もせずに暮らせるぐらいの金額らしい。
それとここ1週間のダンジョン探索で稼いだのが全部で金貨2枚ほど。
そこから生活費を差し引くと、ほとんどプラスになっていないのが現状。
そんな状況で奴隷の購入にまで回せる金の余裕はなかった。
そもそも勇はどちらかといえば処女厨寄り。一度でも他人のものになった女を自分のヒロインにする気にはどうしてもなれなかった。
「まあ、仮に奴隷落ちしていても、いずれ俺が金持ちになったときにでも救ってやっから。そのときにはせいぜい感謝することだな」
たとえ男であっても自分に従うのなら助けてやってもいい。
いくら傲慢な勇とはいえ、そのぐらいの情けは持ち合わせている様子。
ちなみにこの世界の女性と関係を持ったり、娼館に行こうという考えは今のところ勇にはない。
それは日本人のヒロイン候補を全員落としてからだ。
そのついでに邪神ザルサスも軽く倒してやるか。そんな思いに欲望を募らせながら、目をギラつかせて傲慢ダンジョン内を闊歩する金城勇の姿があった。
◇
「えい! えい! やあ!」
漫画みたいな掛け声とともにゴブリンの頭上に杖を振り下ろす穂乃果。
手にしているのはマジカルステッキという棒にリボンの付いたユニーク武器だ。
物理的なダメージに関してはほぼ皆無と言っていいレベルだが、本来魔法少女を悪堕ちさせるためのこの武器を魔物に対して使うと、徐々に恍惚となっていき最後はビクビクと痙攣しながらその場に倒れてしまう。
まあ、ゴブリン程度の精神力の低い魔物にしか効かないので、使い勝手のほうはあまりよろしくない。逆をいえば、防御力が高い反面精神力が低い魔物には非常に有効な武器だったが。
あれから3日間俗悪ダンジョンで椎名と穂乃果に魔法を使わせてみたのだが、俺は椎名と穂乃果の育成方針を90度くらい変更していた。
こいつらに魔法の才能がないことがはっきりしたからだ。
初日に比べれば多少は成長の跡も見られるが、いまだにポンコツっぷりを遺憾なく発揮している椎名と穂乃果のふたり。
2日目は3匹のゴブリンを倒しているし、3日目は7匹倒すことに成功。
まあ、ふたりなりに頑張っているのもわかるが、このペースでは如何ともしがたい。
一番の問題は魔力枯渇によりすぐに戦闘できなくなってしまうところだ。
といっても、これでもこの世界のレベル1の冒険者に比べれば魔力量はかなり多め。
だいたい、そう簡単に経験値やドロップ品を手に入れられるのならこの世界の冒険者だって苦労はしない。
ようは早いところ一人前になり、俺の手から離れてもらいたいという俺の願望とは一致していなかったってわけだ。
「もう! このピコピコって音、どうにかならないの?」
椎名のほうの武器はピコピコハンマー。
こちらもユニーク武器で、どのような人間がどんな力加減で振るっても、きちんと当たれば一律50ダメージを与えるという武器。
スライムなんかは1撃で倒せるし、ゴブリンも3発ほど当たればだいたいは倒せる計算。
使い所によっては素晴らしい武器だが、俺のように膨大なHPを有している相手や再生能力のある魔物にはまるで意味のない代物ってことだ。
何もおふざけでこんなネタ武器を渡しているわけではない。
椎名と穂乃果に見合うちょうどいい武器がなかっただけ。
もっと高性能な武器も所持しているが、それでゴブリンクラスの魔物を倒したところでふたりの訓練にはならないだろう。
武器の性能だけで片付けていては、魔物の実力が高くなたっときに基本技術のほうが追いつかず、後で苦労するだけ。
なので魔物が弱いうちに椎名と穂乃果に出来るだけ戦闘経験を積ませようという狙いもあった。
と、椎名のピコハンがゴブリンの頭に当たり、2匹目のゴブリンが光の粒子となって消滅する。
「椎名、ひとりで前に出過ぎだぞ。穂乃果との連携をもっとよく考えろ」
「ふぅ……。わ、わかってるわよ」
「そんなこと言って2回も攻撃を食らっていただろ。古代魔導士のローブを着ているから何ともないが、さっきので行動不能になってもおかしくないんだぞ」
「うっ。今度から気を付ける……。いえ、気を付けます」
「穂乃果は攻撃のミスが多過ぎる。というか、魔物との接近戦で目を瞑ってしまうクセを何とかしろ」
「す、すみません。すぐそばまで接近されるとまだ怖くて」
「まあ、そこは慣れるしかない。そうだな、次はいっぺんに3匹の相手をしてもらうか。とにかく頭数を減らすことだ。一番近くに居る1匹を速やかに始末することだけをまずは考えろ」
「うん。任せといて」
「が、頑張ります」
そんな感じでどうにかこうにか2匹のゴブリンを近接戦闘で倒したふたり。
魔法が駄目なら物理で殴れだ。
もちろん魔法は魔法で鍛えるつもりでいるが、魔力量や器用さもレベルアップして増やさないと話にならない。
魔法だけにこだわっているとレベルアップがいつになるかわからないので、近接戦闘のほうも併用して教えていくことにしたってわけだ。
そんなやり取りをしているうちにもダンジョンの奥に偵察に向かったラビが戻って来た。
「やっほー。苗床候補の雑魚たちによる戦闘もちょうど終わったみたいね」
「ラビ、どうだった?」
「ええ、見つけたわ。このまま30メートルほど奥に進んで、左に曲がった先にゴブリンが3匹居るわね」
「3引きか。ちょうどいいな」
「あ、あの、モーリーさん」
「なんだ、穂乃果?」
「先に疑似訓練で鍛えていただくというわけにはいきませんか。まだ近接戦闘のほうの自信がなくて……」
「うーむ、いや、まあそうだな」
「穂乃果、あんたの脳みそはゴブリン並みなの? 対人戦と魔物相手の戦闘はまったくの別物よ。人型なら多少の共通点もあるだろうけど、獣や不定形の魔物を相手にして対人戦の技術がそのまま通用するとでも思ってんの?」
「ラビちゃん……」
「まったく。だいだい何なのよ、その下品な格好は。ゴブリンに襲ってくれと言わんばかりの格好じゃない。スカートの丈が短過ぎて、動くたびに下着が丸見えになってるけど。まさかゴブリンでも誘ってんの?」
「こ、これは……」
現在、椎名と穂乃果の格好は古代魔術師のローブの中が学校の制服からパチンコMEGAZ異世界店の制服に変わっていた。
元々着ていた学校の制服が椎名の魔法自爆のせいで、ところどころ燃え焦げてしまったからだ。
というか、止めろラビ。
その罵倒は俺にも刺さるから。パチンコMEGAZ異世界店の制服は元々俺が趣味全開で作ったものだ……。
「仕方ないじゃない。替えの服なんて用意してなかったんだからさ」
「冒険者がしているような格好をすればいいだけじゃない。椎名と穂乃果ってもしかして痴女なの? まさかこのダンジョンに潜ったのも、自分から進んで苗床になるためだったりして……」
「ち、違うわよ。あんなダサい格好はお断りってだけ」
「はあ……。危険なダンジョンに潜っているのに格好なんて気にしていてどうすんのよ。あんた馬鹿なの?」
「ほっといてよ。女子高生にとってオシャレはとっても重要なんだからね」
ふたりは古代魔術師のローブを着ているので、中に何を着ていようが関係がない。
そのことをふたりに伝えたところ、選んだのはパチンコMEGAZ異世界店の制服だったというわけだ。
まだ女子高生気分が抜けていないのかと呆れはしたものの、実質的に問題ないことも確か。
本人たちがこれで構わないと言い張るのだから、俺も止めようとしなかったのだが。
いつものようにラビと椎名の間に口喧嘩が始まる。
そんなふうに何とも緊張感のないダンジョン探索を俺たちは続けていた。
パチンコMEGAZ異世界店へようこそ(宇宙人のゲーム2) 四葉八朔 @sibahassaku
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