夢の香り
天近い空中庭園に、小さな銀の翼を持つ娘が一人ぽつんと座っている。
娘は、空から恋人が戻ってくるのを待っている。
蜃気楼を統べ、楽を奏で、香を喰べて生きる半神半獣の
――私だけの夢。
娘は、自分のために生まれた
そしてデリヤは、自分を生み出しこの
デリヤは
そうして、娘がその生涯の出来事や苦しみを徐々に忘れていくのを見守っているのだという。自分が忘れたのかどうか、娘には分からない。忘れてしまったことはもう思い出せないからだ。
忘れるほどに、娘の背の銀翼は大きくなる。
――いつかこの翼で、お前が飛べるようになったら。
デリヤは繰り返しそう話す。
――それはお前が生前の出来事をすべて忘れたということ。無我となり、再び
――その時、この世界も俺も消えるが、悲しむことはない。お前も、
――
――今ただ一時、
――だから、恐れることはない。
紅い肌、紅い髪、金の瞳と、優しい声。
「ただいま、ラハシャ」
ラハシャとは、どんな意味だったろうか。
「お帰りなさい、デリヤさま」
デリヤとはどんな意味。ああ、少しずつ少しずつ薄れてゆく。
温かな胸に抱かれ、溶けるように夢の香りを感じて、ラハシャは目を閉じた。
そうして花の咲きこぼれる樹下の寝台に横たえられ、天の楽師に護られながらその永遠の唄を聴く。
――
――
――
――この世はすべて、
〈了〉
糸の震え 鍋島小骨 @alphecca_
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