第4話 新しい同居人

 5歳になった。

 2年もの間、欠かさずに文字の読み書きの練習と魔力制御の鍛錬を欠かさず続けてている。基礎をすっ飛ばして物質生成したがアレは偶然の成功だったようでここ二年の間の成功率はかなり低い。

 最近は知識収集を兼ねて外にも遊びに出ている。

 近所の散策に始まり、二年目に当たる今日この頃に至っては港の方まで足を延ばしている。


「らっしゃいらっしゃい! 良いのが入ってるよ!」


「さぁさぁ、お立合い! 王都でも重宝されているこちらの包丁。切れ味はそこらの包丁なんかとは段違い! 硬い鱗に覆われた魚もこれこの通り!」


「おお!」


「しかも刃こぼれ一つなし! そんな業物な包丁が今ならんと……」


 中規模というだけあって町の活気は中々のものだ。

 港町は海路を通じて外の特産物や流通している質の良い品々を取り寄せることができる。そのため自然と人の活気に満ち溢れていく。

 物流が豊かだと人々の表情も柔和になり活気が出てくる。

 ここは規模こそ中くらいだが本当にいい町だと思う。


「今日の散歩はこれくらいにしておくか」


 町散策を切り上げて帰路に着いた。



 家に帰りつくころには夕陽が水平線の向こう側へと顔を半分ほど隠していた。

 茜色に染まる空に感動を覚えつつ自宅を捉えた俺の視界にお母さんの姿が映り込んだ。


 ただいま。


 そういおうとした刹那、母の足の後ろで何かがモゾっと動く。

 茜色に染まった山野から吹き下ろす風に山吹色の長い髪がサラサラと靡く。

 お母さんの足の陰から半分顔を出しながらこちらを見つめてくる。

 蒼い瞳だ。

 透き通った宝石のように綺麗な蒼色。

 茜色に染まった景色の中でも色褪せない白い肌と小さくまとまった顔立ち。

 将来有望な美幼女だった。


「誰?」


 俺の問いにお母さんが微笑みかけながら答える。


「お母さんの教え子の子どもでティアナちゃんっていうの。ちょっと事情があって今日から暫くの間ウチにお泊りすることになったの。フォルドはお兄ちゃんだからしっかり面倒を見てあげてね」


「あ、うん」


 俺は静かにティアナなる美幼女に近づく。

 彼女は一瞬ビクンと身体を震わせそそくさとお母さんの両足の陰に隠れる。

 人見知りの激しいタイプのようだ。


「フォルドだよ。暫くよろしくね、ティアナちゃん」


 簡単に挨拶を済ませると俺は二人にその背を見送られて家の中へと入っていく。


 夜。


「なぁフォルド」


「なに?」


 食事を終えて寛いでいるとお父さんが話しかけてきた。

 お母さんとティアナちゃんは入浴中だ。


「その……ティアナちゃんの事なんだが……」


「別に嫌ってるとかじゃないからね」


「そ、そうなのか。じゃあ、なんで素っ気ない態度を取るんだ?」


「あー、そう見えちゃってたか、やっぱり。俺的には気遣ったつもりだったんだけど」


「気遣った?」


「うん。あの子からはなんというか……触らないで、近づかないでっていう雰囲気、みたいなものが見えたから。だからあの子から近づいてくるまでは距離を取ろうかなって思ってるんだ」


「そうだったのか。ティアナちゃんなんだが実は……」


 お父さんが話してくれたのはティアナちゃんの身の上話だった。


 父、母、ティアナちゃんの三人家族でご両親はお母さんの教え子だったらしい。

 ご両親の魔法師としての実力は悪くないとの事でお母さんも目を掛けていたという。お母さんの教えを受けて王宮所属の魔法師になってからは手紙をやり取りしていたようだが、つい一か月ほど前から音信不通になり心配したお母さんが王都に出向いて動向を探ったところ、二人は任務で遭遇した強力な魔獣との戦闘の果てに深手を負い、傷が元で病を発症して亡くなってしまった。

 ご両親は無くなる間際にお母さんに娘ティアナの行く末を託したようで、お父さんも彼女をウチに引き取るのは賛成のようだ。


 で、問題は当人と俺。

 両親二人がティアナを受け入れても俺や彼女自身が受け入れられなければ悲惨な事になってしまう。

 両親二人はそれが心配だったようだ。


「安心してよ、お父さん。今すぐっていうわけにはいかないけど、いずれ必ずティアナちゃんと仲良くなって見せるからさ」


「そうかそうか! ティアナちゃんのこと、よろしくなフォルド」


 お父さんは胸を撫で下ろしていつも通りに笑った。

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アン・ダンテ〜歩き直しの異世界転生〜 @Stuka87

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