第3話 3歳になりました

 3歳になりました。

 一丁前に歩き回り、あーだ、こーだとと喋りまくってます。

 両親は大喜び、ご近所さんもお利口さんと持て囃す。

 ちょっと大袈裟では、と思ったのだが産まれて間もない赤ん坊が何か行動すると何とも言えない感動を覚えるのだろう。

 これからも変に怪しまれない程度に努力を続けよう。



「くー」


 俺は朝が弱い。

 大音響の目覚ましを設定しておかないと起きられない。だから転生先でも決まってお母さんに起こしてもらっている。

 布団から這い出て家の外にある井戸で顔を洗う。水汲み用の桶に顔を覗かせる。桶の中には自分の寝ぼけ顔が映し出された。


「おや、お目覚めかい」


 桶に溜めた水で顔を洗っていると一人の初老女性に話しかけられた。

 お隣近所にすむ歴戦の助産師メルダはさんだ。俺が産まれた時にお母さんの出産に立ち会い、手伝ってくれたのがこのメルダさんらしい。

 世話好きなのかちょくちょく話しかけてくれる。それ以外にも自前の畑で収穫した野菜や果物をお裾分けしてくれる気のいいおばちゃんだ。


「ついうたた寝しちゃうんですよ」


「アンタはまだ3歳の子供だからね、仕方が無いさ。もう何年かすれば早起きできる様になるはずだよ」


「だといいんですが・・・・・・」


「はっははは! まあなるようになるさね。おっと、お母ちゃんがお呼びだよ」


 メルダさんに言われて振り向くとお母さんが朝食の支度を整えて呼び戻すべく手を振っていた。


「それじゃあ戻ります!」


「あぁ、しっかり食べるんだよ!」


 メルダさんのお節介を背に受けながら家に帰宅して朝餉を取った。


 食後。


 俺は父の書斎へと足を踏み入れる。

 目的は読み書きの練習のため。父の書斎にはそれなりの数の蔵書を保有している。

 本の種類も料理や掃除といった生活一般関係から政治、経済といった内政、剣術、槍術、弓術、馬術、兵法といった武芸百般に至るまで様々だ。

 全く読めないが読んでる風を装うことで読書に関心が有ると言う誇示になる。


 本の分類は表紙と挿絵をみて判断しているため、それが正当なのかは分からない。


 まあ、大体は最初の2、3頁で寝落ちするんだけど。


 3歳児と言う事もあって頭脳労働一つとってもかなり体力を使う。なのでどうしても寝落ちを避けられないのだ。

 寝落ちしていると大体お母さんが風邪をひかないように布団をかけてくれる。



 1ヶ月が過ぎた。

 本を読む真似をしていた甲斐もあってお母さんが家事の合間を縫って文字の読み書きを教えてもらえるようになった。

 少しずつではあるが読み書きの熟達が進み始めたことで次なる目標についても考え始める。


 魔法の行使。


 この世界には魔力が存在し、それを原動力にして行使される魔法もまた一技術としてその存在を公に認知されている。

 魔法は火、水、風、雷、土、闇、光(聖)の7系統に分類される。

 世間一般では3系統使えれば多い方と言われている。魔法の行使に大切なことは詠唱の正確さと言われているらしい。


 多くの場合、魔法師は使い魔と呼ばれる従属させた魔獣を使役している。種類によっては畏敬の念を集められるようだ。

 定番の使い魔としては鳥類、爬虫類の名が挙げられる。

 名の通った魔法師は幻獣と呼ばれる類の魔獣を使い魔にしているとか。


 幻獣というのはグリフォンやドラゴンと言った人里から遠く離れた秘境などを棲家にする魔獣たちの総称であり、呼び出すにはそれなりの魔力量が必要となる。

 仮に呼び出せても幻獣たちの眼鏡に適わなければ最悪命の危機に瀕することもある。


 お母さんも元は名のある魔法師だったようでドラゴンと使い魔契約を結んでいたことで有名だったとか。また魔法師としての実力も折り紙付きで、一線を退いた後も教導の職に就き、後進育成に力を注いでいたとの事。


 お父さんも騎士家系の次男坊だったが、魔法師として大成することはなかったものの、魔法剣士のような立ち回りで冒険者稼業に精を出していた。冒険者の間では凄腕の魔法剣士として今なお謳われいるとか。

 現在は実家の斡旋で騎士の教導を中心に働いている。


 そんな二人の子供である俺もまた似たような道を歩むのだろうか。


 冒険者として世界のあちこちを飛び回るというのも悪くは無いのだが、安定した収入を考えると宮廷所属の魔法師になるのが一番だろうか。


 別に確信があっていうのでは無いけど、神様のお墨付きもあるし、努力さえすればいずれはそうなれる気がする。なんとなくではあるんだけど。


 一丁やってみるか。


 産まれてまだ3年の赤ん坊にできるとはおもってはいないけど、一応チャレンジしてみる。

 アニメやラノベでは想像力が大切だとかあったしそれに倣って挑戦してみる。


 縁は浅い狐色、真ん中は上下にふんわり膨らんだ濃い狐色。中には甘くとろけるこし餡。


 ポン、と何も無いところからそれは現れる。

 スポンジのように柔らかく懐かしいこの感触に込み上げる想いを覚えて目端に涙を浮かべる。


 もう2度と戻ることが出来ない地球。その日本では定番にして某未来の猫型ロボットの大好物。


 その名はどら焼き。

 初めての魔力行使で和菓子を生成。

 うーん、ダ・○ーポかな?

 自身のオタクの原点とも言うべきアニメを脳裏に想い浮かべて苦笑するのだった。

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