1第1話

 

「腹が減った。」

掠れた声が、小さな山小屋に響いた。



俺の名前は、枯木竜之介だ。大学二年で登山部に所属している。趣味は格闘技だ。顔は割と良い方だ。マジで。


そして、モテはしなかったが、彼女はいた。もう一度言おう。彼女はいた。しかも、とびっきりの美少女だ。


だが、もう会うことはできないだろう。



なぜなら、遭難二日目で、未だに助けがこないからだ。


持ってきた荷物は雪崩にすべて流されてしまったし、電子機器類も水没して使い物にならない。

そして、水を飲んだのも飯食ったのも二日前が最後だ。

加えて、体温の低下。明日までは持たないだろう。

しかも、服はびしょ濡れで、所々凍ってきているのに、着替えはない。



これもすべて部長が悪い。


部長が、明日のライブに間に合わせたいから多少吹雪いてても行こう!とか言い出したから。


わざわざ冬の山を選び、曇ってたにも関わらず、連れてこられて、わざわざ俺に道の先の安全を確認してこいとか言って一人で行かされた結果がこれだ。


ねぇ。遭難しちゃったじゃんか。


何が活動報告はしないといけないだ。部費のための実績集めだからって無茶させたから…



と、責任転嫁したところで、俺が死にそうなの変わらないんだよなぁ。


もうちょっと楽な死に方がよかったな。

あぁ、四肢の感覚がほぼないわ。


心残りがあるとすればやっぱり、

「最後に会いたかったな…、優衣」



だんだんと意識が薄れていった。





目が覚めた。


知らない天井だ。


というか、よく分からんとこに寝てるし。



照明がついてないのになぜか明るい。


壁も真っ白…いや、奥行きがわからない?


ここはどこだ。



「目が覚めたか、人の子よ。」


と、中性的な、それでもって、重みを感じる声が聞こえた。



声がしたほうへ視線を向けると、立派な白いひげを蓄えたおじいさんがいた。


え、このなりで、声が中性的って、ギャップありすぎて吹くわ。



「うるさい、わしも気にしてるんじゃ。」


と、しゃべってもないのに返事が来た。


あるあるですね。



冗談はさておき、ここは何なんだ?



「ここは、天国とも言えるし、地獄ともいえる、いわば死後の世界じゃな。


そして、枯木竜之介よ。貴様は死んだのじゃ。」



知ってた。さっきから息してないからな。


不思議極まりないが、気にしてもしょうがない。



で、みんな死んだら今の俺みたいにアンタと会話すんのか?



「いや、ほとんどの者は、ここに来たことすら認識しないだろう。


そしてお主は特別だから留まってもらっておる。」



ほーん。十中八九、異世界へ転生ってやつだろうな。


ふっ、そういうことなら俺に任せておけ。ばっちり予習済みだ。


いつ行ってもいいようにサバイバルグッズはまとめておいたし、自分の身を護れるよ


うに格闘技だって習っていた。


バッチコイだ。


あと、ちゃんとチートとかもらえるんだよな?



「おお、それはもちろん。お主の言うチートとやらは分からんが、他とは隔絶した強力なスキルを授けてやろう。それじゃあ、遠慮なく…」


と、言って手を翳した。


すると…




気付いたら、暗い空間にいた。




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