82. マナポーター、勇者となる
そうして訪れた、パレードの当日。
「先輩~。私、体調が悪いので今日はお休みを頂きます!」
「もう諦めよう、アリア……」
「は~な~し~て~く~だ~さ~い⁉」
往生際悪くじたばたとするアリア。
そんな彼女を引っ張って、僕たちは式典に向かうのだった。
***
「うぅぅ、先輩すごい人だかりですよ……」
「想像以上に大規模なイベントだね」
(まさか、これほどとは――)
王城の前には、すでに人だかりが出来ていた。
僕たちを一目見ようと、大勢の人間が王城前の広場に押し寄せたのである。
新たな英雄の誕生に、集まった人々は目を輝かせていた。
「当たり前です。イシュアさんにリリアンさん――今やお二人は、世界中で知らぬ人の居ない大人気の冒険者ですからね。一目見ようと国中から人が集まってますよ」
「知りたくない情報だね⁉」
そう説明したのは、一緒に呼ばれていたペンデュラム砦の防衛戦にあたったイルマだ。
彼も戦いを勝利に導いた立役者として、この場に呼ばれたらしい。
テンパる僕を見て、イルマはくすりと微笑んだ。
王城のバルコニーに立ち、国王陛下が演説を始める。
「皆の者、本日はよくぞ集まってくれた」
国王陛下の声が、魔法で拡散され集まった人々の元まで響き渡る。
「本日集まってもらったのは他でもない。此度の戦いで目覚ましい戦果を上げた英雄を皆に紹介するために、このような場を設けさせてもらった」
集まった人たちの興奮に満ちた顔が、王城の中からでも見える。
(この中、出ていくの?)
(地味な、支援役職に過ぎない僕が?)
ハードル、上げすぎだろう。
「勇者、リリアン殿――前へ。この者は、此度の戦いで、見事に四天王イフリータを打ち倒し、見事その役割を果たした」
「うおおおおお!」
「リリアン様、リリアン様、リリアン様~!」
「リリアンちゃん、可愛い‼」
リリアンが、ちょびっと緊張を滲ませながらも、人々の前に姿を現した。
歓声に応えて、リリアンがちょんと手を上げた。それだけで王城の周辺は、またしても割れんばかりの歓声に包まれる。
リリアンは勇者の中でも、特に実力も人気もトップクラスの勇者なのだ。
(こ、この後に出ていくの⁉)
(あまりにハードルが高すぎるんだけど⁉)
ここに居る自分が、あまりに場違いなように感じられる。
緊張でお腹が痛くなってきた――そう思うも、時は待ってくれない。
「続いて、此度の戦いで見事に敵の指揮官を打ち倒し、ペンデュラム砦での戦いを勝利に導いた英雄を紹介しよう。イシュア殿、前へ」
(どうにでもなれ……!)
緊張でカチコチになりながらも、僕は国王陛下の隣に進む。
広場に集まった人、人、人。
大量の好奇心に満ちた目が、僕に向けられていた。
「エルフの里が滅びかけた時、災厄の龍が復活したとき――この者は、これまで幾度となく、国の危機を救ってきた。最近の冒険者の中で、最も目覚ましい活躍をした人間だと言っても過言ではないだろう――よって、この者に勇者の称号を授けようと思う」
「うおおおおぉぉ!」
「あの方が噂の、イシュア様なのですね⁉」
「イシュア様、イシュア様、イシュア様!」
一瞬の沈黙――続いて、割れんばかりの歓声が上がる。
(あれ……⁉)
その声は、リリアンに負けずとも劣らぬもの。
正直、僕が姿を現しても、誰だこいつとブーイングを浴びてもおかしくないと思っていたのに。
(見向きもされないジョブの僕が、こうして歓声を受けることになるなんて――)
(これまでしたことは、やっぱり間違いじゃなかったんだ)
不思議な気持ちだった。
別に、脚光を浴びたいと願った日はない。
それでも、これまでの努力が認められたようで、不思議と温かい気持ちになった。
「イシュア、手を振ってあげるの」
「う、うん……」
(さすがはリリアンだ)
(テンパりすぎて、そこまで気が回らなかったよ……)
僕はリリアンに促され、ぎこちなく手を振った。
「きゃ~、イシュア様が手を振られたわ!」
「今のは間違いなく、俺に向けたものだったね!」
「いいえ、今、私と視線が合ったわ!」
手を振られた観客たちから、甲高い悲鳴があがる。
あまりの盛り上がりに――僕は、内心でビビりまくりながらも、ポーカーフェースで笑みを浮かべておく。
(人前に立ちたくないって言ってた、アリアの気持ちが分かったよ!)
(リリアンは、すごいな――)
堂々として見えるリリアンであったが――彼女もまたあがり症。敬愛するイシュアの前で、情けない姿は見せられないと気合いを入れていただけだったりするのだ。
それから国王陛下により、パーティメンバーの名前が読み上げられていく。
集まった国民たちは、温かい拍手でそれを迎え入れた。
アリアは、緊張でカチコチになりながら。
ミーティアは、ちょっぴり照れくさそうに。
リディルは、いつもどおり無表情で。
ディアナは、リリアンの成長を喜ぶように。
彼女たちは勇者パーティの一員として、人々の前に立つ。
正直なところ緊張し過ぎて、何をしたか細かいことは覚えていない。
「それでは改めて、我が国が誇る英雄たちに、感謝と尊敬の念を込めて……。我が国のこれからの発展を願って、今ひとたび溢れんばかりの拍手を!」
国王陛下が、場を締め括るようにそう宣言した。
再び巻き起こるは、割れんばかりの拍手喝采。
広場に集まった人々の歓声は、いつまでも止むことはなかったという
***
――新たな英雄の誕生を記念した凱旋パレード。
その日は、歴史に残る大英雄の名前が、始めて世に出た記念すべき日となった。
勇者リリアンと、勇者イシュアがリーダーとなった伝説のパーティ。その快進撃は、まだまだ始まったばかりである。
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