文化祭後

「やっぱり来なかったね、ヒロ」

「だってあの子、猫みたいに気まぐれなんだもの。最近も付き合い悪かったしね」


 秋の西陽が射す教室では祭の熱も冷めぬうちに文化祭の片づけが行われていた。


「先生からチラッと聞いたんだけどさ、家にも居ないんだって。昨日の夜から」

「ウチらがカバン届けた時はいたじゃん」

「うん。その後に出てったのかな?」

「さあ? 何考えてるのかわかんないしー。どこかテキトーに歩きまわってるんじゃない? 猫みたいに」


 予定通りC組はカフェを催した。隣のD組に負けない程の盛況だったが、それは鏡迷路のを解消するために教師陣が急遽整理券制にしたからであった。C組のカフェは鏡迷路を待つ客たちの良い待機場所となったのだ。


「でもさ、猫って死ぬ前に家出するって言うじゃん? 飼い主に死に際を見せないとかで」

「えーなにそれー。じゃあヒロも死んでるってこと?」

「さあね?」


 下校チャイムが鳴る。明日は休日だが、文化祭の片づけが終わらないクラスのために教師陣が特別に登校を許可してくれていた。土日を返上してでも、月曜日からは授業を通常再開できるようにという圧政ではあるけれど。


「でさぁ、この前言ってたお店なんだけどさー」

「めっちゃオシャレなカフェのこと?」

「そうそう。カフェというか純喫茶みたいな? こんな田舎町にはもったいないくらいでね。この後に行こうよ。ひとりじゃ入りにくいんだけど、こないだたまたまドアが開いてて覗いたらさ、中にはすっごくかわいい人形がたくさん飾ってあったんだ」



 その瀟洒しょうしゃな喫茶店には、西洋人形パペットがたくさん飾られていた。金髪、白髪、赤髪に、青や緑の瞳。個性的でどれも可愛らしく微笑んでいる。


 彼女たちの中には猫をモチーフにした人形が1体混ざっていた。うっすらと白い毛並みに仔猫のような淡い青色の瞳で、鼻はちょんと小さい。それは喫茶店のマスターである老婆に優しくブラッシングされていた。

 1体の猫の人形――容姿は違えど、彼女も他の西洋人形たちと同じくこの喫茶店に馴染み、受け入れられている。


 埃を払い、毛並みを整えて貰った猫の人形の表情かおは、どこか満足しているようだった。人形なのに、まるで生命が宿っているかのように。ほら、いまにも可愛らしく鳴いてみせてくれそうなほど。




にゃあ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グール・サンクチュアリ 和団子 @nigita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ