冒頭から凧上げのシーン。
とてものどかな、和やかな、風に吹かれて口角が上がるような。
でも。
その地域の凧上げには、奇妙で不可思議な風習が隠されていて。
十一才の、まだ無邪気さの残る蒼介くんには、寝たきりで意識不明のお母さんがいます。
一度も言葉を交わしたこともないけれど、彼女はどんな知識があって、どんな風に遊んでくれるんだろうか──いつも少し気掛かりでした。
お母さんの田舎へ帰省した際に、先の奇妙な風習と出逢う蒼介くん。
宿題の『ことわざ調べ』とも相まって、好奇心と恐怖心の狭間で蒼介くんは少しずつ調べていきます。
ヒヤリ、ゾワリは鳥肌もの。
ラストの三話も鳥肌もの!
夏にももちろん、できれば年の変わり目に読んでいただきたい一作です。
告朔の餼羊(こくさくのきよう)。
意味を失ったからといって古くからの風習を廃止してはいけないという意味の言葉ですが、本作はそんないつ廃止されてもおかしくない田舎に伝わる風習にまつわるお話。
まず特筆すべきは雰囲気作りの上手さ。
小学生である蒼介の視点から描かれるお正月の田舎の風景は淡々としつつもどこか不穏な物を感じさせ読者を妙に惹きつける怖さがあり、その不穏さは話が進むにつれ具体的な現象へと形を変えていき、やがて夜中に聞こえ始めるどこかからの呼び声……。
論語に記された故事、意味がよくわからないまま田舎で行われる風習、そして蒼太が生まれたときから意識を失ったままの母親という三つの要素を組み合わせて、一つの作品としてまとめている手腕も鮮やかで、読んでいる途中の怖さと・不気味さとは裏腹に、全ての要素がまとめつつ思わぬ形で物語の幕が閉じる構成は非常に巧みです。
短編なのですぐに読めますし、ただ怖いだけの話ではないので、ホラー系が苦手と言う人にもオススメできる一作です。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)