4.恐怖! ヘル・トラクターの蹂躙!

 鍬男くわおとこ蹂躙じゅうりんしていた。襲い掛かる屈強な男たちを次々と血祭に挙げ、迫りくる戦車を次々に破壊し、飛来する迫撃砲はくげきほうを鍬で打ち返した。そして、転がっている死体を見つけるたびに、マンドラゴラ畑へと放り投げた。マンドラゴラの葉っぱが、死体の血を吸うたびにゆっさゆさと揺れた。――そう、人間の血もマンドラゴラの肥料としては最適なのだ。


 そして鍬男が、あらかた圃場ほじょうを制圧したとその思ったその時――辺りに怒声が響き渡った!


不遜ふそんなる侵入者よ! ようこそ我がマンドラゴラ農場へ!』


 見ると、そこには、な、な、な、なんと!? あまりにも巨大なトラクターがドゥンドゥンとエンジンを吹かせているではないか! 巨大! あまりにも巨大!! お分かりいただけるだろうか!? トラクターの正門に備え付けられた46㎝対地制圧砲の圧倒的な威圧感を! その迫力は、さながら現代によみがえった戦艦大和の雄姿! 空にそびえ立つ黒鉄の城! それが今、鍬男の眼前に立ちはだかる!


『驚いたか? 俺が陸自を引退した時に、海上保安庁から強奪した戦艦をチューンナップしたトラクターだ。イカすだろう?』


「実に悪趣味だ」


『ふん。バカには大艦巨砲主義の浪漫ろまんが分からんらしい。しかし、俺の部下共をあっという間に蹂躙じゅうりんした、その腕前には敬意を示そう』


 どうだ? と。

 百鬼夜行丸は、スピーカーの向こうから猫撫で声で呟いた。


『貴様、俺の仲間になる気はないか? それだけの強さがあれば、金も、力も、権力も、マンドラゴラも思いのままだ。俺と二人で、一緒にこの世界をぶっ壊してやろうじゃないか』


「興味ない」


『ならば死ねぇ!!!』


 百鬼夜行丸は、46㎝砲の発射ボタンを躊躇ちゅうちょなく押した! 途端に吹き荒れる爆風! 轟音! 砲塔から漏れ出す火口が、余韻の如く揺らめく頃には、眼前の何もかもが吹き飛んでいた!


『フハハハハハ!! 愉快!! 爽快!! 痛快!! やはり火力は高いに限る!』


 自らの勝利を確信する百鬼夜行丸――それも当然! 相手がいかなる怪人であろうと、あれだけ強力な砲撃の前では大人しく灰塵かいじんに帰すより他はない。

 近代兵器の前に人間は無力! それが常識であり世の常! それこそが、百鬼夜行丸が長い自衛隊生活の中で、唯一見出した真理である!!


 ――しかし。


「――やはりオモチャに過ぎん。火力が高いだけで、目標に当たらぬのでは意味がない」


 百鬼夜行丸の背後から、絶望的な声色が響いた。

 振り返ると――そこには鍬男!!


「ば、バカな!? あの状況でどうやって生き残ったというのだ!?」


「簡単な話。――!」


「そ――そんなバカな話があるか!!」


!! さぁ死ぬがよい!!」


「ッハァ!! やれるもんならやってみなァ!!!」


 右手を振りかぶる鍬男に対して、百鬼夜行丸は空手を構えるでもなく、手刀を振るうでもなく――謎のボタンを、押した!!



 ――そしてすべてが光に包まれて、圃場に一筋の黒煙が聳え立つ。



 

 

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