マンドラゴラ殺しの鍬男
神崎 ひなた
1.その男、鍬男
マンドラゴラの生産に国家資格が必須であることは、今更語るまでもない――そんなことは、小学生だって知っている。マンドラゴラは危険な植物だ。その滋養強壮成分はあまりに強大で、未加工のまま食すと栄養価がオーバードーズして死に至る。そう、マンドラゴラは究極の栄養食品であると同時に、膨大なエネルギーを秘めた、核に変わる次世代エネルギーとしても研究の機運が高まっている。先進国では、マンドラゴラの保有数が国力に大きく影響を与えるといっても過言ではない。
だが、再三申し上げる通り、マンドラゴラは危険な植物である。収穫の際に断末魔を聞いた者はたちまち発狂するし、育成方法にも細心の注意が必要だ。
しかしながら昨今、その「当たり前」を無視する命知らずな連中が幅を利かせている。
「――
「だろうね。お前さんは今の総理大臣の名前を聞いても、同じことを言うんだろうさ。お前さんは世の中のことを何にも知らないんだから」
ドイナカ・タウンの場末のスナック「吹き溜まり」にて、奇妙な男女が会話を交わしていた。一人はライダースーツにピンクのアフロ、ひんまがった長い鼻の先にはレイバンのサングラスが掛かっているという、いかにも奇抜な老婆――彼女こそがドイナカ農協支部長、バーバ・ヤガである。
そしてもう一人は、全身をボロ切れに包んだ謎めいた男だった。
彼の右腕は
「連中には参ったもんだよ。この街ではマンドラゴラの流通がめちゃくちゃになっちまっている。マンドラゴラ農家から苦情の電話が止まらない、いや、それだけならいいわな! 連中、仕舞いにゃ電話越しにマンドラゴラの悲鳴を聞かせてくるんだよ! 命がいくつあっても足りないわ! アッハッハッハ!」
「――それで、俺を寄越したというわけか」
「察しが速くて助かるね。今回は、農協の支部局長として正式な依頼だよ。
老婆はニヤリと笑ってラフロイグの瓶をラッパで飲み干した。
「……ウィック。そうそう、いつも通り、幕僚長官と警視総監には話をつけているから安心しな。連中が育てたマンドラゴラはお前さんの好きすればいい」
「……
「
「噂?」
「愚連隊を束ねる男は、かつて不死身の漢と――呼ばれていたらしい」
バーバ・ヤガはグシャっと笑い、男は小さく頷いた。そして男は無言で立ち上がり、重く、静かな足取りでスナック「吹き溜まり」を後にした。
男の気配が無くなった後、カウンターから豊満な中年が怯えながら、こそこそと老婆の元に駆け寄ってきた。彼はこの店のマスターだった。彼は老婆に、
「バ、バーバさん……今の男は一体……?」
「知らんのか。アンタも
老婆はニヤリと笑った後、マスターの震える手からラフロイグの瓶をひったくった。
「
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