6.決着! 鍬男 VS 百鬼夜行丸!
そんな地獄に、さながら悪鬼の如く立ち尽くす、二人の男があった。一人は、身長3メートルを超える巨漢。そしてもう一人は、右手が鍬の男だった。
「驚いたな。まさか、ヘル・トラクターの爆発に巻き込まれても死なんとは」と、百鬼夜行丸が低く笑った。楽しそうに。心の底から楽しそうに。「鍬男よ。どうやら貴様は本物の怪人らしい」
「……貴様に言われる筋合いはない」鍬男もまた、低い声で
この男は、狂っている。
いくら
「俺を狂人だと思うか? だが、あんな鉄クズ、いくら壊れても一向に構わん。また作り直せばいいだけの話だからな――時間も金も、いくらでもある。俺は不死身なのだ」
「不死身だと?」
「その通り。俺はな、昔から死なんのだ。いや、死ねぬのだ。故に不死身と呼ばれ、陸自では元帥の席にまで登り詰めた。単身、原子力空母と戦ったことすらある。それでも――死ねぬのだ」
故に俺は、これを天命だと悟った――と、百鬼夜行丸は笑う。
「そうか。つまり、マンドラゴラを大量に生産しているのは――自らが神となるためか」
「ご明察。ご存じのとおり、マンドラゴラには常軌を逸した滋養強壮成分が含まれている。常人が摂取すれば一瞬で死ぬほどの、強力な滋養強壮成分だ。――しかし俺は常人ではない。この頑丈すぎる肉体があれば、生でマンドラゴラを食することも可能――そして、その推察は当たっていた!」
百鬼夜行丸はニヤリ、とほくそ笑んで、地面に突き刺さったヘル・トラクターの破片を引き抜いた。そして、自らの心臓に突き刺す! 突き刺す! 突き刺す! ――にも関わらず、百鬼夜行丸の頬には不敵な笑み!
「分かるか? これが、今までに一万株のマンドラゴラを未加工のまま喰った俺の再生力だ。もはや傷を負った瞬間に完治する。どんな毒も、一瞬で抗体を作ってしまう。放射能ですら効かぬ。分かるか? 俺は不死で、故に、神である。そんな俺を殺すということが、本当に可能だと思っているのか?」
「………そうか」
鍬男は、静かに目を閉じた。そして、呟いた。
「そういうわけか。つまり――お前も、同じだというわけだ」
「なんだと? 貴様――何を言っておる?」
「貴様も、俺が今までに殺してきた、救いようのない愚か者だと言っている!!」
鍬男は、カッと眼を見開き、右手の鍬を振るった!! そして地獄的に
「愚か者は貴様だァァァァァァァ!! 分からんか、俺は無敵! 死のうと思っても死ねんのだ! 不死! 天命! 貴様のごとき怪人が
「それはどうかな」
鍬男の右手に、ガツンと突き刺さるものがあった。それは、百鬼夜行丸も知らない感触だった。肉でもない、筋でもない、骨でもない、その感触――。
その正体は――マンドラゴラだった。
「な――なんだこれは――!? なぜ俺の肉体にこんなものが埋まっている!?」
「……ごく稀に存在するのだ。生まれながらにして、マンドラゴラを体内に宿す者が……それを、不老不死と勘違いする愚か者が……」
冬虫夏草と言えば、分かりやすいだろうか――と。
鍬男は、絶望的に言った。
「人に寄生するマンドラゴラ――俺はその狩猟を生業としている」
「な、なにをバカな。冬虫夏草だと……? ならば、ならばこの俺は、この俺は、この俺の思考は――」
マンドラゴラに支配されている――どころか
マンドラゴラそのものである――などど。
「みっみっみみみみ認められるかそんなことがあぁぁぁァ!!!!」
百鬼夜行丸の両腕が、鍬男を握りつぶそうと迫った。
しかし次の瞬間には、ぶちん、という無慈悲な宣告と共に、鍬がマンドラゴラを刈り取った。それは人間の形を植物であり、植物の形をした人間のように見えた。と――その途端に、丸太ほどある太い腕が急速にだらんと下がり、耳をつんざく絶叫が、圃場全体に響き渡った。それは今日、どんなマンドラゴラよりも深く地の底に轟くような絶叫だった。しかしそれも一瞬で終わる。鍬男は素早くマンドラゴラの声帯を切り捨ててしまった。マンドラゴラは無念そうに口角を強張らせ、やがてそのまま絶命した。
「……収穫、完了」
地獄のような呟きが、しんとした圃場に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます