ロマンティックな裏切り
みなづきあまね
ロマンティックな裏切り
12月にしては、例年より寒さを感じない。それでも空気は乾燥し、風が吹くとぶるっと身震いしたくなる。週末の忙しない街中を、私は彼と一緒に駅へと歩く。
街中にはクリスマス前からの名残でイルミネーションが灯っている。年末年始の買い出しのためもあるのか、いつもより活気づいた町は騒々しかった。その一部と化している私たちは、その喧騒にかき消されないようにお互い言葉を交わしていた。
私はかれこれ1年半、彼に恋をしている。彼には彼女がいない。それは知っている。なぜなら、彼があれこれ出会いを求めるために行動していることを知っているからだ。この時点で私に興味がないことは理解している。だからこそ、一番の理解者でいられればと思った。初めて彼が女性と買い物に行ったり、なかなか返事がないことに一喜一憂したりしていることを知った時、私は涙を流した。それでも、上手くいっていないことに内心まだチャンスはあるとほくそえみ、応援するふりをしながら、破綻する度に「次!」と励ますふりをして、心の中では安堵していたのだ。
しかし、彼は年末に趣味を通して今までもやりとりをしていた女性と会うようだった。それだけ聞いても、以前同様胸騒ぎでその場から消えたくなった。それでも、またそれこそ上手くいかないだろうと思い、それを願い、私は先日も彼にエールを送った。
これでもいい。彼は私と数日に1回、示し合わせたわけでもないのに一緒に話してくれるし、他の社員と比べれば、お互いのプライベートをさらけ出す仲でもある。彼に彼女ができなくて、だけど私に興味がなくて・・・この状態でもいいから、続けばいいと思った。
「年末、どこで会うんですか?」
私の無邪気な質問に飛んできた答えは、私の頭を殴りつけるものだった。
「・・・厳密に言うと、旅行に行くことになって。」
「え?理解が追いつかないんだけど。直接会うのは初めての人ですよね?」
「そうなんですけど、色々あって近郊に1泊することになりました。」
「え・・・」
私は単純なショックで歩みを止めた。彼との間に少し距離ができた。
「別に何も考えてないですって。そんな離れなくても・・・」
彼は私が彼の考えにひいたから距離をとったと思ったらしく、苦笑いしながらそう言ってきた。実際は思考回路が停止して、涙が出そうだからなのに。
「・・・えっと、ちょっと追いつけないんですけど。」
私はやっとのことで、彼が求めているような答えを絞り出した。まるで、早すぎる展開についていけないというように。事実、その側面もあったが、私には二重の意味だ。同僚のペースの早すぎる恋愛模様についていけない、そして好きな人の恋愛が思ったより早く進んでしまっていること。
「ですよね、だからこの間は詳しくは話をしなかったんですよ。」
「いやあ・・・付き合ってもない人と旅行に行くような人だとはね!」
私は無理に笑顔を作り、じっと彼のことを睨んでみせた。
「なんですか?」
「なんでも。私に止める権利なんてないですし、ご自由に」
「まあそうですけどね。・・・目が語ってるじゃないですか。」
彼は私が「手順を踏まずに女子を旅行に連れてくなんて!」という非難をしてると思いこんでいるのか、私の批判的な目をそう笑った。
違う、そうじゃない。私以外の女性と会わないで欲しい。しかも一度も直接会ったことのない人なんて。私の方があなたのことをたくさん知っていて、理解していて、扱い方だって他の同僚より心得ている。いきなり旅行だなんて行かないで欲しい。彼のことだからひとっとびに危ないことはしないのは分かる。それでも、手をつないだり、抱きしめたり、キスくらいはするかもしれない。
少なくとも、私が見たことないほどのやさしさでその女性をエスコートし、気を遣い、笑顔を見せるのは間違いないのだ。
言葉が紡げなくて沈黙が場を支配した。彼は私にとがめられたことに気を悪くしたのか、少しの後話題を仕事のことに変えた。
私は目にゴミが入ったと思わせるほど自然に、手袋の指先で目頭の涙を拭って彼にいつもの笑顔を向けた。
ロマンティックな裏切り みなづきあまね @soranomame
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます