第143話 王の嫌がらせ?
魔道具制作はなんとか納期を間に合わせることが出来た。
多額の報酬の約束と引き換えに不健康を手に入れた。
魔力の使い過ぎなのか、体から力が湧いてこない。
こういう時は休んだほうがいいだろう。
「今日は休みだな!」
誰に言っているわけではないが、独り言をつぶやくと誰かに肩を掴まれた。
「やぁ、ロスティ君。実にいい仕事をしてくれた」
王だ……あまり会いたくなかったな。
「陛下。おはようございます。申し訳ありません。何日も体を洗っていないので……」
「そんな事を気にする訳はないじゃないか。戦場では何日も体を洗わないなんて当たり前じゃないか」
ん?
ここはいつから戦場になったのだ?
いや、時々、職場を戦場という人もいるが……
それはともかく。
「とりあえず、僕はゲストハウスに戻らせてもらいますね。ミーチャもきっと待っていることですから」
む?
やけに肩を掴む手に力が入っているな。
痛い……かなり痛いぞ。
「ロスティ君とミーチャは本当に仲がいいんだな……まぁいい。どうだろうか? 朝食を一緒にする気はないかい?」
「いや……ですから。まずは体を……」
なにやら嫌な気配を感じる。
断っておいたほうがいいだろう。
「それなら王宮で入ればいい。それにミーチャもすでに移動しているはずだ。どうする?」
……端から断らせるつもりがないんだな。
いや、王の誘いで断れた試しがない。
ここは勇気を出すときか!?
「そういえば、ロスティ君の作った魔道具はとても素晴らしいものだったと将軍がべた褒めしていたぞ。考えていた数倍は品質がいいようだ。是非とも、次から魔道具の納品をお願いしたいと言っていたぞ。さすがだな」
……。
「職人頭も一緒でしたから……でも、嬉しいです。それで、納品というのは具体的には……」
「さすがだな。まぁ、その辺りの詳しい話もこれから、どうだ?」
そういうことであれば……
「じゃあ、行きましょう。ただ、体だけは……」
「うむ。では行こうか。王宮の風呂はすごいぞ!」
……本当に凄かった。
圧巻の大きさは言うまでもないが、使われている人の多さ。
何人もの女性に囲まれて、体を洗われる体験は生まれた初めての事だった。
これが王宮の……。
なんと甘美な空間なんだろうか。
しかし……ミーチャにはとても言えないな。
浴場から出て、用意された服に袖を通してから……
もちろん、これも女性の手を使って。
案内役の女性が先導して歩いていると、廊下の突き当りで怒ったような表情をミーチャがいた。
魔道具制作の一週間というもの、見え隠れするミーチャしか見ていなかった。
しかも、いつもは着ないドレスを身にまとっている。
「ミーチャ! やっと会えたね。それにしても、すごくキレイ……」
「浴場では随分と楽しそうだったみたいじゃない!」
へ?
なぜ、それを?
いや! 別にやましいことは何一つやっていないぞ。
「あら? どうも話が違うみたいね。お父様はロスティが鼻の下を伸ばしきっているって……」
案内役の女性がクスクスと笑っている。
それにしても、陛下が?
まさか……
「ちなみに陛下は他に何か言っていた?」
「ん? 分からないわ。それだけ聞いて、飛び出してきたから。何か言っていたかもしれないわね」
あの野郎……。
これは忘れない記憶としておこう。
「ロスティ。ここは男漁りをする女性が多いことは忘れないでね。もちろん、逆もそうだけど。だから、体を洗ってほしかったら、私に頼んで。時々なら洗ってあげるから」
……なんと返せば?
「あ、ありがとう。じゃあ、今度お願いしようかな」
「うん。じゃあ、行きましょうか」
朝食と聞いていたが……
どうみても会議室だよね?
誰もご飯なんて食べていない。
鎧姿の将軍や寝不足なのか疲れ気味な大臣。
元気なのは王だけのようだ。
席に着くと食事が僕の前だけ運ばれてきた。
いやいやいや、ここで食べろと?
すごい注目を浴びているんだけど。
なにこれ?
「皆のもの。この事態の中、よく集まってくれた。ああ……ロスティ君のことは気にしないでくれ。朝食をここで食べるほど、この国を想ってくれているのだ。私もかくあるべきだと思うんだが……」
王の話を聞いて、一同は納得したかのような表情を浮べた。
なんだろう……納得なんて出来ないぞ?
王は僕に何か恨みでもあるのだろうか?
「ロスティ。さすがにここで朝食は良くないわよ」
ミーチャまで……。
どうやら、完全に嵌められたようだ。
こうなったら、やけ食いだ。
会議の内容なんてどうでもいい。
むしろ、王の発言のときになったら……
「おかわりをお願いします!」
これは王との戦い。
負けるわけにはいかない。
「ロスティ。そんなにお腹が空いていたのね。かわいそう……」
違う!! 違うぞ。
だが、退けぬ!!
会議は終わり、大量に食べた反動と寝不足でそのまま倒れてしまった。
……気付いたのはゲストハウスだった。
ミーチャが覗き込んで、心配そうな顔を浮かべていた。
「ロスティ。こんな緊急事態であれだけ食べられることに皆、感心していたわよ。相当、戦場慣れしているんじゃないかって。それにしても王国がこんなに大変なことになるなんてね。私達もこれからのことを考えたほうがいいかもしれないわね」
ん?
ミーチャの言っている意味が全く分からない。
魔道具作りをしている最中に一体何が起こったというのだ?
「それは私から説明しよう」
王が窓の外からのっそりと姿を現した。
「ミーチャ。済まないけど、嫌なものを見た気がするんだ。窓を閉めてもらえないだろうか?」
「ほう。ロスティ君も言うようになったでは……ちょっと待ってくれ。ミーチャ。なんで、閉めようとするんだ? 私が分からないのか?」
ミーチャの容赦ない窓閉めに閉口したのか、ちゃんと玄関から入ってきた。
「玄関からというのは、なにやら緊張するものだな」
いや、それが普通だけど?
「さて、王国の現状だが……」
話はかなり厳しいものだった。
いや、一週間程度でここまで酷くなるものなのだろうか?
まずは状況だ。
王国は多数の貴族がそれぞれの領地を支配している。
それは王国の7割にも及ぶ。
そして、7割の貴族領のうち、実に半分が王家からの離脱を表明したのだ。
つまり……王国は一週間足らずで三割以上の領土を失ったことになる。
それはどこかが攻めてきたわけではない。
暴動が激化し、領主達が呼応した形だ。
それ以外の領主は味方……というわけではない。
王都に近い貴族はさすがに裏切ることは無かったが、遠方になればなるほど、様子見が増えていった。
「正直に言って、これほど苦戦を強いられるとは思ってもいなかった。このままでは王都に侵攻されるのも時間の問題だろうな」
なんと悠長な。
だから、初期に手を打つべきだったんだ。
王は軍を集結させるために多くの時間を割いた。
それが敵に有利に事態を運ばせてしまったのだ。
「ロスティ君の言い分も分かるが……それよりもロスティ君。君には戦場に出てもらうことは出来ないだろうか?」
ん?
「一兵卒として働くということですか?」
「そうではない。少し早いが、リマールの街の領主として一軍を率いて戦ってほしいのだ。あの地には二千の兵がいる。それを遊ばせておくほど、こっちにもゆとりがなくてね。どうだろうか?」
急に言われてもな……。
公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね! 秋 田之介 @muroyan
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