ゴリッゴリの経済小説!

 新興の航空会社を経営する社長とその同僚たちが、感染症の大型流行に対応するために、事業を畳んだり立ち上げたりして奮闘するお話。
 タグにもある通り、経済小説です。ビジネスの実際を、主に経営者や投資家といった人々の視点から描いたお話。単にビジネス小説と聞いてぱっと思い浮かぶものとはおそらく一線を画しているというか、例えば市場や会社組織における個々の営業職や技術職の苦難苦闘を描いたものではなく、もっとマクロな視点でお仕事を描いた物語です。おそらくなかなかに珍しい内容で(たぶん初めて読みました)、新鮮な楽しみがありました。すごい。競合がいない(少ない)こと自体がもう強み。
 最大の魅力はやはりモチーフそのもの、経営やビジネスに関する部分です。といっても、このレビューを書いている私個人は経済音痴なので、この作品に取り上げられている様々な知識に関しては、正直さっぱりなのですけれど。すごいのはその「さっぱり」をざっくり理解させてくれるところと、厳密にはわからないままでもしっかり読ませてくれるところ。
 きっと難しい(少なくとも自分にとっては)ことをしているのは間違いないのに、でも彼らがなにを目指し、そしてなにを成さんとしているのかがちゃんとわかる、という、この専門知識の取り扱い方のバランスが見事で惚れ惚れしました。身も蓋もなく言ってしまうのなら、読み終えた今、なんだかものすごく頭が良くなった気分。
 もちろん、知識だけで物語ができるわけではなく、それをお話としてきっちり仕上げてくれる、ストーリーや登場人物も素敵でした。突き抜けた性格の社長・青崎さんに対し、語り部(視点保持者)の矢倉さんの常識人っぽさ。個性的でありながら安定感のある配置が楽しく、彼らの掛け合いが物語を華やかに彩っているのがわかります。
 内容そのものはもう、本当にゴリゴリの経済小説なのですけれど、でも知識のない人でもスルスル楽しんで読めちゃう、非常にホスピタリティの高い作品でした。牧田さんが好きです。堪えているつもりの私情がダダ漏れになってる感。好き。