さあ、奇跡を見に行こう!

「よし、じゃあ行くか! 明日実、一旦バット仕舞え」

 明日実に振り回されるだけじゃなく、俺も自分の意思で行動していこう。何せ奇跡を見に行くのだ。自分で歩かなくては届きっこなさそうだからな。



「あ、え? ……行くって、どこへ?」

「……お前の家さ、マンションの5階だったよな?」

 幼馴染を舐めることなかれ、すでにお互いの家など把握している。


「そうだけど、それがなに?」

「気付けよ。こんなところで打ち返しても、お前んちをはじめ、高い所は全滅だぞ?」

 明日実の口が間抜けに「あっ!」っと開いた。


「だから高い所……望山にでも登るぞ。ほら、そこで奇跡を起こすんだろ?」

「……任せて! 無敵の愛の力で打ち返す!」

 どちらともなく、お互いの自転車に向かって駆け出す。

 目指すは望山、俺たちがカブトムシを取りに行った森がある山。天体観測のために登ってやぶ蚊と格闘した山。

 この町で一番高い山だ。


 そこで、こいつが奇跡を起こすのだ。


 来るなら来い、『隕石フィーネ』め。こいつが宇宙の彼方までかっ飛ばすだけだ。




 無謀? 無茶? 無理?

 知ったことか。


 夢物語? 妄想?

 勝手に言ってろ。


 俺はこのハチャメチャ暴走機関車、『チビタンク』こと生島明日実の彼氏だぞ?

 彼氏が彼女を信じなくてどうするんだ。




 現在、8時2分。

 残り9時間58分、それだけあれば余裕で望山を登って用意できる。


 もう『隕石フィーネ』が落ちるまでの時間じゃない。




 俺の彼女が隕石を打ち返すまで、あと——9時間58分。


 さあ、無敵の愛の力を信じて、奇跡を拝みに行こうじゃないか!

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愛の力は無敵! ~さあ、奇跡を見に行くとしよう~ 蟹野 康太 @kanino

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