外伝

転生者という楔

 神々の生みの親である原初の女神ティアマトが倒され、その亡骸なきがらでガイアは創造された。

 ガイアでは生命が誕生し、これを女神パナケイアは見守る。

 そして予兆を初めに感じ取ったのも女神パナケイアであった。



「――――なぜ母なる女神の眷属けんぞくが……」



 それは神々でさえも予見できていなかった出来事。

 ガイアではティアマトの眷属である魔物が現れ始め、次第にその数は増えていった。

 そして増していったのは数だけではなく、魔物の力も増大していく。

 より強力な魔物が現れるようになり、それは魔神と呼ばれるものすら現れ始めるようになる。


 だがこれは予兆だ。魔神など取るに足らない存在。

 神々は魔物が現れ始めたことで予見できていたが、どうすることもできなかった。

 神々の力は強大過ぎるゆえに、ガイアではその力を受け止めることは不可能。

 一度力を行使すれば、ガイアなど消滅していただろう。

 なによりそれを倒すことなどできはしない。

 そしてそれはガイアに生まれた。


 ガイアでリリスと呼ばれる存在である。魔神など比較にすらなりはしない。

 リリスは突然現れすべてを黒い水が飲み込み、すべてを焼き尽くしてしまう。

 人々に抗うことはできず、蹂躙じゅうりんされるのみ。






(我はいつまでこの惨劇を繰り返す。この地の生命をすべて飲み込み、焼き払えば終わるのか?

 この者たちは、なんの関係もなく暮らしているだけだというのに……)


 姿は原初の女神であるティアマトのそれ。

 だが白銀に輝いていた美しい姿はなく、黒という色が蝕んでいる。

 そんなティアマトを、奇跡を行使することで倒す者たちが現れた。

 その者たちは次元の異なる聖遺と呼ばれるものを召喚する。


(人間たちよ。それではダメなのだ――)


 ティアマトにできることは、この数百年で確立されたリリスを自身のなかで抑え込むこと。

 だがリリスを抑え込むことで、ティアマトの意識はそちらに向かざるをえない。

 結果ティアマトの身体はティアマトの抑え込む力次第で動きが変わる。

 眠りにつくこともあれば、抑えきれずに殺戮を繰り広げることもあった。

 それでもまだ抑えられているということなど人々は知らない。


(やはりダメなのだな――――)


 聖遺を使う者たちに倒されたティアマトであったが、それは一時の平穏。

 ガイアはティアマトであり、これがある限りティアマトの肉体が滅びることはない。

 それは原初の女神であるティアマトの権能によるもの。


(我の権能を無効にする、加護を与えねばどうにもならぬ。だがそれを受けることができる者はいない)


 さらに数百年、ティアマトは待った。ティアマトの加護を受け止められる存在を待ち続けた。

 その間、ガイアの人々を苦しめながら。





 最初に異変を感じたのは、ガイアを見守っている女神パナケイアである。

 ガイアという世界に、外の世界から喚ばれた存在が現れた。

 その者はティアマトの影響を濃く受けており、ガイアでは存在しなかった黒髪で生まれる。

 パナケイアはそんな赤ん坊を見て胸を痛めていた。

 赤ん坊は黒髪が理由で、両親ですら気味悪がっていたから。

 その者はガイアには関係のない者。だが関係ないがゆえに、ティアマトの加護を受け止めることができる。

 

 女神パナケイアはすぐに加護を与えた。他の神々もその存在に注意を向けて見守っている。

 今のティアマトでは、外の世界からガイアに転生させることなどもうできない。

 つまり今回ティアマトが転生させた者が倒せなければ、ティアマトのなかに生まれたリリスが倒されることは二度とないということ。

 パナケイアはしばらく思案し、注意深く人々を見る。



「女神ティアマトが転生させた者を、ガイアで導く者を選定しなければ」



 ガイアの世界に染まってしまっては、リリスという存在に囚われてティアマトは加護を与えることができない。

 そのためなのだろう。いずれ外の世界の記憶が蘇るようにティアマトが転生させている。

 だがこれは同時に両刃の剣でもある。

 この者はガイアにまったく関係のない者であるのと同時に、生きてきた世界が違い過ぎるため価値観も異なる。

 それゆえに、ガイアの人々の思いなどを伝える存在が必要だとパナケイアは考えた。



「人々のことを想っていてガイアのことを伝えられる者」



 おのずと選定は絞られていく。魔法の存在など外の世界と違うところはあるが、一番の違いはリリスと魔物の存在。

 これらと戦う騎士のなかからパナケイアは選定する。

 転生者と巡り合うことを考えれば年齢も絞られ、地域もかなり決まってくるのは明白。

 年齢を考えれば子供に絞られるため、そうなると子供を育てる親の人格にも目を向ける必要がある。



「いた――――。この子が特別だとわかるように」



 パナケイアはその子、クレア・メディアスに白いステータスカードを与えた。

 さらに関係を持っていくことになるであろう者たちを選定し、金色のステータスカードを与える。

 だがそれでも運命を決めるのはパナケイアではない。

 そのため助言できる存在が必要だと判断し、神聖力が高い者を後に選定する。



「良い方向に進むことを望んでいますよ」

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》異世界神殺し《 気づいたら転生していた俺は、公爵令嬢である騎士を助けたら仲間になってとつきまとわれた 粋(スイ) @suikaku

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