置きに行く小説は要らない
naka-motoo
キャラ設定やプロットや展開を暗に示唆する出版社の言葉をわたしたちがまともに聞くのならばかつてのようなホンモノの小説は二度と生まれないでしょう、つまりもういいうんざりだ
仕事が終わって横断歩道の赤信号を待つ瞬間に、
書く。
その更に帰途にお不動さまのお社のベンチに3分間だけ腰掛けて、
書く。
わたしが使うツールはスマホ。
膝の上にワイヤレスのコンパクト・キーボードを置ける状態ならばそれを使って、そういう状態でなければ画面をタップして。
止まって黙考できる執筆環境など無い。
家に着いたとしても、姑が「参るな」とわたしを仏間から遠ざけるために仏壇の前に出ることができなくて、蛇腹の経本を寝室で家の仏壇のある方向に向かって読んで一日の無事を感謝した後に、出窓の前に立ったままでコンパクト・キーボードを置いて数分間、
叩き込む。
インプットのための読書などできない。姑の命令によって「本を読むな。図書館へも行くな」ということをまともに実行せざるを得ないので、プロの書く小説は読めない。
ただ青春の頃にホンキで読んだホンキの文豪や野垂れ死にするのではないかと思えるほどのホンキのアンダーグラウンド小説家のホンキの小説。
間違ってもじっくりと座って作ったプロットや資料を読み漁って作ったキャラ設定や、そういうものとは縁の無いわたしの小説の書き方。
方法論なんかじゃない。
哲学なんかじゃない。
ただひたすら、止まって思考できない、小説を書くことに没頭することができない、10年続く研究費受給が担保されないと日本の立国とする腰を据えた研究ができないなどと主張する研究者のようなことを畏れ多くて言うことができない。
明日をも知れぬワナビでしかない。
明日には仕事や介護や・・・ひょっとしたら国指定の難病の親が死んでしまってその後処理の実務等で忙殺されて仕事はもちろんのこと小説を書くことに集中できない可能性が高いので自部屋の机やテーブルで書籍を堆く片脇に積んで、緻密に『戦略』を練った小説を書く時間がない、無いのみならず、そういう『置きに行く』小説を書くことが恥ずかしくてできない。
いじめを撲滅するための小説や、ココロの中の戦争をする人間たちの小説を、わたしが安全地帯でゆっくりとプロットを練りながら書くことが恥ずかしい。
申し訳なくて、できない。
自分が眠れないからこそ、人に言えないほどの悩みと心痛を抱える人の小説をホンキで書ける。
殴られえぐられ唾棄されてきたからこそ、誰かが殴られえぐられた箇所の打撲を癒し、誰かが吐きかけられた唾をガーゼタオルで拭ってあげるような小説をホンキで書ける。
世界を股にかけて、しかも国内滞在時には誰もが憧れる古き美しき街で研究に没頭できる研究者に親の介護をスルーパスされて受け取らざるを得ないからこそ、仕事しながら介護してほとほと疲れ果てている日本の大勢の人たちの理不尽を感じるココロを慰めるための小説をホンキで書ける。
書けるのさ。
書けるんだ。
書けるのよ。
書ける・・・・・・・・・・・
「ふうん・・・・・・・ダメだね」
「運営さん、どこがダメですか?」
「すべて、だね。読んでいて不快になる。共感など決して得られない小説の数々だね」
「そこをなんとか世に出す方法はないんでしょうか?」
「自費出版とか?」
「おカネがありません」
「じゃあダメだね。今居る会社で永遠に下僕か丁稚のように仕事をして行って、それで投稿だけ今の頻度でしてってください」
「そうすれば芽がありますか?」
「ない」
そこで頭がぐらぐらと揺れていることに気づいた。
「おり?どうしたの?風邪?」
わたしが小説を書いていることを知っている、たったひとりの同志がわたしに訊いた。
わたしは答えた。
「ホンキを出した、代償」
置きに行く小説は要らない naka-motoo @naka-motoo
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