宇宙船をもらった男、もらったのは☆だった!?2

山口遊子

第1話 えーと、マリアさん?


[まえがき]

『宇宙船をもらった男、もらったのは星だった!?』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897022641

完結していますが、なろう版でのPVが350万を超えたので、感謝SS第二段を書きました。(ちなみにカクヨム版は24万PV)

◇◇◇◇◇◇◇◇



 アギラカナで日本からの移民の受け入れを開始して数年が経過した。


 この間すでに数百名は強制送還している。


 内実は、某国のスパイに仕立て上げられた日本人が移民に紛れ込み、周りの移民を使嗾しそうして日本以外との国交樹立や技術の移転を求めたためである。要は某国に有利になるように政治活動を行ったわけである。個人であろうと社会インフラや社会福祉上の要望などはまず聞き届けるが、こういったアギラカナの運営方針に反するような政治活動は看過できないため即刻日本に送還した。強制送還というかなり甘い処置であるためこういった輩の侵入は後を絶たない。


 今では、最初の入植地の人口も300万を越え、名称が新東京市ということになった。サツマイモ島も名前がちゃんとついて、新本州島となった。安直ではあるが、『新』という言葉が実際に新しい出発を示す言葉として、移民の人たちに受けたようだ。ちなみに、こういった名称は、公募で決めている。公募という形で多数決を取れば、無難なものに落ち着いてしまうのは仕方がない。


 新東京市内への郵便物などのあて先は正式にはアギラカナ外周部第二層、新本州島、新東京市、どこどこ~。ということになる。実際は本人名とIDだけで、あて先の住所など付けなくても、郵便物などは届くはずだ。



 新東京のほかにも、新東京を中心に複数の小都市が建設されており、各都市は新東京市をハブとした高速道路、高速鉄道などで結ばれている。また、市内の移動は地下鉄と徒歩または自転車が基本で、個人所有の車両も完全自動制御なため、車両専用道路以外では自転車並みのスピードしか出すことはできない。



 新東京市には政治機構は存在せず、市のメンテナンス関係の仕事は全てコアが行っているため行政機構すら存在しない。従って市内には官庁街などは存在しない。


 新東京市の市街中心部には科学博物館や美術館、それに最近オープンした、各種地球生物から読み取った生体情報を元にバイオノイド技術を使って創りだされた動植物を自然の姿で観察できる大動植物園と、同じく水生動物のための水族館などが併設された大型の公園が整備されており、その公園を中心として、商業エリアが広がっている。ただ、大型動物などはまだ個体が成体まで成長しきっていないため、動物専用に作られたロボットが各個体の補助をしている


 各種の飲食店や、食材や食品、衣料品や小物などを売る店などもテナントとしてその商業エリア内のビルの中に多数店を構えている。基本的に店長も店員もほとんど元は素人だったのだが、それ相応のノウハウ的なものは事前学習を終えた上での開店のため、大きな失敗などは起きていないようだ。それどころか、店の人が日々研鑽を積んでいったおかげか評判の店といったものもそれなりに数を増している。そういったタウン情報を発信するサイトなども現れているのでほとんど日本の都市と変わらない生活ができる。


 放送と言えば、日本で放送している番組などはリアルタイムでこちらでも視聴できるようにしているが、あまり視聴率は高くないようだ。日本と違い、恣意的な数字を出す意味などないため、視聴率は視聴者(18歳以上の全住民が対象)が今何を端末で視聴しているのか全数サンプルで計算しており、番組視聴中でもリアルタイムの視聴率を確認できる。一端末で同時に数番組の視聴も可能なため、そういった場合、その端末からの視聴数字は分数として計上される。


 日本国内では受像機を持っているだけで視聴料を請求する放送局もここでは国外での放送という意味で視聴料を取っていない。アギラカナの駐日大使館を通して視聴料を取ろうという動きはあったようだが、日本政府の総務省によって拒否されている。




 今日は、特に急いで片付ける必要のある案件もないので、気分は休暇のつもりだ。


 俺自身はどこにも顔を出さず、朝湯朝酒などして私邸でのんびりしようと思っい、マリアにも今日は好きなことをしていていいと告げたところ、マリアが新東京市内の見物がしたいので、一緒に付き合って欲しいと言うものだから、公室にある転送装置で新東京市に向かうことにした。


 市内観光など、俺などと行かなくても、ほかにいくらでも誘う相手ぐらいいそうなものだと勝手に思っていたのだが、よく考えたらマリアは365日休みなどなく俺と一緒にいるわけで、誘う相手などいない可能性も高いのだと思い至り、素直に市内観光に同行することにしたわけだ。




「艦長、今日はありがとうございます」


「いやいや、俺の方がいつもお世話になっているからこれくらいのことはお安い御用さ。俺で間に合うのならいつでも言ってくれていいからな」


「ほんとですか?」


「マリアに俺がうそを言うわけないだろ」


「わあ、嬉しい。約束ですからね。それでは、市内まで跳んでいきましょう」


 われわれは並んで転送装置の前の指定サークルの上に立ち、一瞬ののち、新東京市内の某ビル内に設置した転送装置室に転送された。




 転送室を出てエレベーターに乗り、一階のホールからビルの外へ。


 一応俺もマリアも有名人ではあるため、俺は黒ぶち眼鏡に紺色のキャップ。マリアも黒ぶち眼鏡に赤いキャップという変装をしている。見る者が見れば俺たちだと分かるのだろうが、有名人のプライバシーを詮索をする芸能リポーターのような人間はここにはいないため、あまり神経質になる必要はない。実際、俺とマリアは一緒にいる方が普通なわけで、うわさになることもないとは思っている。こんなおっさんと若い娘がどうのと考える者などまさかいないだろう。


「艦長、まず最初は、新しくできた動植物園に行ってみたいのですがよろしいですか?」


「俺も映像では見たことはあるが実物はまだ見てことがないので見てみたいな」


 そういうことなので、二人して動植物園のある市街中心部に歩いていくことにした。



 俺の左側を歩くマリアが、


「あのう、艦長、腕を組んで歩いても良いですか?」


「悪い、今なんて言った?」


 なんだか、マリアが妙なことを言うものだからつい聞き返してしまった。


「……」


 あれ? やっぱり『腕を組もう』と言ってたのか。これは無神経なことを言ってしまった。


「マリア、すまん。俺で良ければいくらでも」


 そう言って、左脇をすこしあけてやったら、マリアが何も言わず俺の左腕を両手で軽く掴んできた。かなり体が近い。近すぎて歩きづらい。


 えーと? マリアさん? これってお付き合いしている男女のように傍から見えると思うんですけれど?



 それなりの距離を二人で腕を組みながら歩いていたら、さらにマリアの位置が俺に近づいてきた。たまに柔らかいふくらみが左の二の腕にあたるのだが、ちょっとこれはマズくないか? 本人が気にしていないのに俺が気にしてどうする。平常心、平常心。


 ……。


 動植物園、水族館と梯子をしていたら、ずいぶん時間がかかってしまった。


 遅い昼食を取ろうと二人で入った公園内のレストランで、軽い食事をとっていたろころ、マリアが俺に、


「艦長、先代のマリアからお聞きかもしれませんが」


「なにを?」


「私は、アギラカナにおいて生殖能力を初めて得るバイオノイドの一体として生産されました」


「それは聞いている」


「それで、先代のマリアはバイオノイド種としてわれわれを固定しようと考えました」


「生殖能力があるなら、新たな種、アギラカナ人ということになるか」


「先代のマリアは、バイオノイドを種として固定する際、より多くのアーセンの血を残そうと考えたそうです」


「なるほど、それで?」


「話が少し飛びますが、艦長は、私を見てどう思いますか?」


「美人で気立ての良いだと思っているよ」


「ありがとうございます。では性的な意味ではどうでしょう?」


 一瞬、飲み物を手にした俺の手が止まった。俺って、今現在マリアにからかわれているんだろうか? まさかマリアが俺に対してそういった行動に出るはずないよな。


 いままで、そういった目でマリアを見たことが無かったといえばうそになるが、ただそれだけだ。ここでマリア自身が改まってそういったことを俺にたずねてきたことと、今までの会話をまとめるとおのずと答えが出てしまう。


「マリアは俺のために作られたってことか?」


「はい」


 マリアは俺の目を見てはっきりとそういった。


「そうか。わかった。マリア、俺の方こそこれからもよろしくな」


「はい、艦長」


 そう言って、マリアがほほ笑んだ。


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