コミカルな掛け合いが楽しい、小品ライトミステリ

 亡くなった書道家の残した不可解なメモ、「空」一文字の暗号に挑む、名探偵とその助手の物語。
 ライトミステリ、それも読者自身による謎解きを主眼においた作品です。題材(というか謎の種類)としては、いわゆる暗号もの。ごく短い掌編ということもあってか、謎自体は至ってシンプルで、肩肘張らず気楽に挑戦できるところが魅力的なお話でした。
 軽妙でとっつきやすい空気感が好きです。登場人物の造形や、彼らの繰り広げる掛け合いなど、作品全体に漂うコミカルな雰囲気。これらのいわゆるキャラものミステリとしての魅力を、きっちり謎解き部分と両立させながら一本の作品にまとめあげるという、いやこう書くとある意味当たり前のことのように思われるかしれませんけれど、でもすごいのは全体の分量。わずか8,000文字にも満たない掌編でありながら、これだけの内容を違和感なく組み立ててしまう、そのまとまりの良さには舌を巻く思いでした。いや本当にすごいです。探偵と助手のコンビに依頼人、加えてモブのような役回りの人物と、この尺でこれだけの人物をしっかり捌いているお話は、なかなかお目にかかれるものではないと思います。
 もちろん、肝心要の謎そのものもしっかり考えられており、でもこのあたりはネタバレになるといけないので言及を控えます。謎解きに興味がある人もない人も、軽い気持ちでさくっと読める、軽妙さの楽しいライトミステリでした。

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